俳優

  『スター&貫禄』

三船敏郎   男の中の男、将軍、俳優界の天皇。 日本人素材から作れる最高峰のルックス、しかし背丈平均というスタンダード。 その迫力不足をセクシーな野太ヴォイスで補完。 名前もイイ、顔もイイ、頭もイイ 25歳までに辿ってきた人生の深みもイイ。 誰も演じられないし誰も批判できない無二無三のゴッド。 三国連太郎   人間を演じられる最高峰の男。 もはや映画でない「飢餓海峡」の世界を形作ったキチガイ3勇士の一人。(トム、左) 三船と同様 戦火を交える屈折した青春で人格形成ののち いくつかのドラマあって、俳優デビュー。   深すぎる、底が見えない、無限の海峡を生きる男。 生きる事を最優先に面倒事全てから逃げ続けた結果 類稀なる人間性を獲得、白い道を監督する。   どこまでも魅力的、イイ人だし、これまた「真の意味」で頭がいい? 晩年も好々爺な優しい人のイメージだったが ついぞ本音を語ったことがないように思える。 人間生理が選ぶ人間国宝筆頭。 丹波哲郎   全てが冗談のような男。 「死後の世界はあるんです!」 霊界の下棒、教祖。 日本有数の名家に生まれ 恵まれた人間性とルックスを手に入れる。   バックがこんなんだから一生余裕で生きてきた。 しかし薄情でなく男気あり。そんな どこから来たか分からない妙な熱さが 彼を「泣かせる人情派俳優」の代表格にした。 いつも飄々してるイメージだから 本気で喧嘩やりあった所とか、見たい。 戦後日本俳優がハリウッドで戦った戦歴として三船に次ぐ二位。 数では三船に及ばなかったが質で言えば 「007」に出演した丹波は一位にも迫れる。 丹波イングリッシュを操る国際スタイル。 細川俊夫   生きていた伝説。 文武両道をトップクラスで実現。 ルックスも完璧 家柄も丹波と同類の強さ。 大学卒業手前に松竹を見学、そこでデビューを持ちかけられ入社。 早くも軍人役での起用が多かった。 純情二縦奏   そして1940年1月、時代柄 当然召集された俊夫は少尉で満州へ渡る。 1943年、帰国後も松竹に在籍するが 3年間のブランクによってスターになる時期を逃し 基本演技が微妙な、かつて 松竹三羽鳥にも迫った男には大した役はつかず。 そこで元三羽鳥・佐分利が腐っていた彼を いくつか自作に出演させ 1954年に従軍経験を買って新東宝「叛乱」に主演させる。 「叛乱」の安藤大尉役での熱演により 一躍注目を浴びた俊夫は松竹を辞め新東宝に入社。 61年まで看板スターとして奮闘。 フリーになってもTV、映画話題作に多数出演。 明治天皇と日露大戦争 軍人役、特にクーデター首謀者役を得意としたが 新東宝がニッチでアダルトな映画会社となっても 謀反なく倒産時まで戦い続ける「義」を併せ持つ男。 ろ号       軍閥 陸上界でその名を馳せたアスリートであるから 足腰は強く喧嘩も最強クラス。 目が笑ってない、ていうか顔全体 血の気滾らしている感じだから 育ちが違えばヤクザになっていたハズ。 三船の野生的整い加減最高峰と対になる 貴族的な整い加減の最高峰を持ったナイスガイ。 スパイと貞操   佐分利信 日本映画界のドン。 知恵蔵やアラカンより国民的人気なく 東野や千田と違い有力な劇団出身でもない彼のドンたる由縁は 人生の深い歩みと、まさしく それを感じさせる「大いなる」風貌にある。 炭鉱夫の父を持つ9人兄弟の一員。 苦しい生活を送り、自分の青春を学校教師に見て上京。 が、学校を転々とし郷里に帰る。 そのままダラダラいい加減な毎日を過ごすが 20歳の時、監督志望で何度か目の学校に入学。卒業する。 映画学校で知り合った日活の先輩に世話を頼み 俳優行きを勧められ、1930年日活入社。 そこでのボソボソッとした物腰や風貌が話題を呼ぶ。 33年退社、間に大阪劇団を経て35年松竹入社。 本名の石崎由雄が日活で島津元、松竹で佐分利信となった。 松竹で大胆不敵なる2枚目を演じ「暖流」で看板スターとなり 戦後まで幹部級で主役を担う。 だが戦後において 佐分利のキャラクターに合う役柄に中々恵まれず 世間からも忘れ去られていくが、49年に監督デビュー。 骨太の作品を次々世に送り出して 映画界に話題を巻き起こし いよいよ「サブリドン」の愛称通り、ビッグな男になっていった。 ただ映画を作っただけではなく 彼のセンスは俳優発掘にも及び、東大出の2枚目菅佐原栄一や 松竹の後輩、佐分利ら松竹三羽鳥の地位には戦争で追いつけず 戦後は松竹で佐分利と同様に腐っていた細川俊夫を 自作に出演させ「叛乱」で彼をスターにする事に成功。 人気者になった佐分利は小津ら数々の名匠に起用される。 だが叛乱製作中の1954年に病で倒れ、58年の「悪徳」で監督業をやめ 60年をめどに映画出演もやめ、TVドラマに進出。 1973年まで映画出演はなく 翌年1974年の薩夫監督「華麗なる一族」で久々大作映画に復帰。 既に60台半ばとなっていた佐分利の、人生の深みを帯びた 堂々たる風貌を一気に印象付けた。 既に俳優業でも監督業でもTVでも成功していた男は その経験からして当然の如く 各組織におけるトップの役を担うこととなり この個性は彼の晩年としてだけでない 「佐分利信」全域の印象を強く人々に印象付ける。 そう、まさしく「ドン」だ。   70年代のドンたる役柄としては 薩夫の「華麗なる一族」の社長役 「皇帝のいない八月」での日本裏社会の黒幕役。 TVドラマを再編集して映画化した「化石」の 病から人生を見る社長役。 ヤクザ映画初の家族群像劇「日本の首領」のドン役。 遺作となった「化石の荒野」の衆議院議員かつ黒幕役における 深い風貌の極致・・・まさしく犬養毅の如く。 ドン。 180近い長身でデビューから古風な話口。 中でも70年代以降の怒号 「アアッ゛!!」 は強烈。 まさしくドンの咆哮。 ドン。ドドンパ佐分利伝。 滝沢修   日本演劇界のドン。 貫禄溢れ過ぎて権力者、黒幕の役が多い。 安城家の頃の痩せた貴族当主も良かったが 60年代以降のガッシリした滝沢修の方が印象強い。 安城家 江田島 白い巨塔 薩夫作品における役柄が一番印象的で 「白い巨塔」での名演から「戦争と人間」の貴族当主 「華麗なる一族」の銀行頭取、一つ飛ばして 「皇帝のいない八月」の総理大臣役。 「華麗なる一族」と「皇帝のいない八月」で 邦画界の金狼・佐分利信と共演。 デカいオジサマ2人がデカすぎるスケールで演技合戦。 その2人が老い、死んだ時点で 日本には重厚な黒幕や権力者を演じられる俳優がいなくなり 80年代以降の重厚な社会派映画の空白には 彼等の後継者不在が大きく響いている。 宮口精二   実はクールな2枚目の役を演ったのは「七人の侍」のみ。 しかし宮口精二と言うと やはり「七人の侍」のイメージが強い。 宮口精二が基本、というか大多数の作品で演じているのは 普通の社会人とか普通の軍上層部 それも善玉の人の良いオッサン、または うだつのあがらないオッサン役なのだ。 そして その位置からはほとんど逸脱しない男の異端が久蔵だったのだ。 余りに堂に入った雰囲気と 普段の、サラリーマンな草食人間然が そもそも「侍」を演じるのが初なのに、戦国時代から 実際にやって来たかの如くの風貌をモノにしていた事で 邦画史上でも一位二位を争う強烈な印象を残し それに加え 映画で初めて主要人物を演じた意気込みと 役者生活20年で培った濃厚な振る舞いとが合わさって 剣豪・久蔵役を会心の演技でやりぬく。 それが大きな評判を呼び 毎日映画コンクールの助演男優賞を獲得。 (本作の宮口精二の演技が この賞を受賞するのに必要な一定の指標となる。)   邦画に出てくる「侍」イメージトップ3に入る風貌と 映画を観終わった人の半分ぐらいは久蔵ファンになるだろう 屈指の名演技とドラマ性ありすぎる活躍ぶりとが 宮口精二=クールで陰のある2枚目、というイメージに繋がるのだ。 ただただ強烈! これ観た後で最高殊勲婦人と来れば、まあビックリ。 演技の幅の広さとは「これ」をいうのだ。 稲葉義男   宮口精二と同様 実は「七人の侍」のみスマートな役として出演。 以降ブクブクと醜く肥え太る男。 だからこそルックスに合うように 「203高地」など強烈な役が多かった。 そうだ、「七人の侍」が 彼の2枚目俳優としての最高峰だったのだ。 三橋達也   ちっちゃい田宮二郎。 でもシナトラと競演した国際派。 50年代は際立った2枚目だったが 60年代に入って一気にオッサン臭くなった。 主役以外なら卑怯な役が多いように思う。 シベリア抑留の苛烈な従軍経験を持ち トラで軍人俳優としての自らをを燃焼させた(様に思える)。

  『2枚目左翼』

山本圭   日本映画界が生んだ左翼の化身。 マーティン・シーンとは前世で兄弟だった(と思われる)。 山本学   ミスター社会派。顔から社会派。 細川俊夫同様、血の気滾らす締まった顔とインテリジェンスで 受験戦争と出世競争を勝ち抜いた知的エリートを好演する。 70年代を全盛に、以降は抑えた役者生活を送る。 若い頃は2枚目で、叔父の薩夫監督によく起用されていたが 「スパイ」「戦争と人間」は韓国・中国人の役であり セリフを覚えるのにかなり苦労したと言う。   ちなみに影の薄い弟・亘は安倍総理を嫌っているが 学は安倍総理を求める民間人の代表として活動していた。 今現在の兄弟仲は一体!? 昔の写真など ともかく学はガキ大将、圭は愛らしく、亘はひ弱そうなイメージであるから 思想も順に右、中道、左、という風では?(笑)   近藤正臣   大阪の山本、京都の近藤と 関西2枚目長髪(左翼)俳優としてツートップ張ってきた男。 60年代、東映での絶叫キチガイ時代(20代)。 フリーで都会的2枚目の頂点に立った70年代(30代)。   80年代以降は大人の色気が加わりTVや舞台に専念(40代〜)。 貫禄がつき、さらに3枚目路線も成功。 現代に至る。 ともかく情念の男であり 現代劇はともかく時代劇に真価を発揮する。   まず名前(芸名)から古風であり、顔に似合わぬ これまた古風な声色をも併せ持つ。 殺陣も一等級の上手さがあり 大コケ「狼よ落日を切れ」での数少ない見せ場を作った。 長髪が似合う色男ながら ちょんまげが似合うのも良い。 そして時代劇には情念の演技、つまりオーバーアクトはプラスとなり 古風な声色とも組み合わされば完璧。 藤岡弘、もこんな感じ。 最後に「悲壮美」の雰囲気。 作品内でも まず幸せな将来はほとんど約束されない。 ここまでの時代劇要素は見事。 まさしく2代目市川雷蔵。 先代から身長10cm増しのサムライ。 と、当然時代劇の出演多くその評判も上々 映画やドラマのソフト化にも恵まれていたが 現代劇はそうはいかなかった。   主演作の 「花心中」「動脈列島」「超高層ホテル殺人事件」 全て評論家筋の評価悪く、動員数も悪かった。おもしろいのに (キネマ俳優本での解説に近藤正臣は怒らなかったのだろうか) 映画ファンにすら諸映画の存在すら忘れられてしまった結果か、 動脈列島以外はDVD販売ならず。 テレビで人気の出た男、テレビでの活躍は目覚しく評価は良かったが 柔道&野球ドラマ以外の現代劇DVDはほぼ出ず仕舞いなのだ。 「暖流」や「水中花」(左翼役)など 2枚目近藤正臣の人気作なのに再放送もほぼない。 足でピアノ弾く場面ばっか地上波で流しても 近藤正臣がわかるワケないんだ。 「変なオッサン」これだけ! これでは近藤正臣の真の魅力が 広い世代に伝わらないではないか。 近藤正臣と共に昭和を駆けたファンが 彼と共に鬼籍に入る前に、つまり収支が取れる内にDVD販売 魅力拡散の為にもDVD販売を急ぐべきダ。 あと、2枚目俳優なんだけど 日本人特有の顔のむくみ具合から 時々微妙な顔になったりする。 情念の使い手。シャワーシーンも情念の動き。

  『1935s』

田宮二郎   芸能界随一のダンディマン。 身長180cm、納得安心の2枚目、ダンディボイス、インテリジェンス。 彼も俳優になるべく生まれた男と言えるが 男前の実業家、社長としてもやっていけそう。 「あの」三人は俳優業以外でいたらおかしい。 まあ警察官かお花屋さんぐらい? (天知茂、竜崎勝、綿引洪) 怪しい部分といえば滑舌と頬だろうか。 年とって肌がたれてきて、の人が笑顔になる時の頬。 近藤正臣も同じ感じ。キツい時とイイ時と半々。 堂々のデビュー→芽が出ず辞めたくなる→スターになる→社長に楯突きクビ →泥まみれの青春→復活→野心→失敗→精神がもたない―― という波乱万丈の道のりを歩んできた苦労人。 そう、エリート役の似合う優男だけでなく 飄々としたキザ野郎だけでない「野心家」の一面もあるのだ。 英語も得意で国際志向が高い野心家の田宮は 当然国際マーケットへの進出を望み 日英合作映画「イエロー・ドッグ」の製作・主演を務めたが大コケ。 復活直後の71年にも田宮プロを興し 大コケした「3000キロの罠」の製作主演もしていたが こういう惨めさからか、ともかく苦労に苦労を重ねた結果 精神がもたず1977年に躁鬱となった。 同年、「全員集合!」でおかしな格好をしてギャグをやったが おそらくこれは躁に間違いがない。 あの映像は正直笑えない、切なくなってしまう。 出だし順調でなく 売れてからも決して安定はしなくとも、ただ一途に 「ビッグになる」夢を叶えるため戦ってきた男なのだ。 まさしく男が惚れる男。 こういう並でない、圧巻の厚みを含んだ人生というのは それこそ同年代では加山雄三ぐらいしかいなかった。 だが加山より繊細で、傲慢で、野心家なのが田宮である。 本人も語っているように それでこそ財前五郎を演じられる格があるというもの。 そして、まさしく「白い巨塔」は 田宮二郎の為に書かれたようなものだ。 背伸びした野心家だからこそ 最後には自らを滅ぼすのだ。 リメイク版も立派な出来と言われるかもしれないが 78年版は「何かを超えてる」。もはやドラマではない。 そんな都会的エリートマンの頂に立った田宮二郎と 都会的2枚目の最高峰の近藤正臣。 彼らが競演した「動脈列島」。これはスゴイぜ! 原田清人   個性派脇役役者とはかくあるべしを演技で語った堅剛。 三田村元   凡人の群れから抜け出せなかった凡人界の秀才。 それは日本大学法学部の学歴が示すとおり 「真面目だけど、突き抜けない」コレが彼の凡人たる所以だ。 ヤングガンでチャーリー・シーンが演じていたリーダー役が まさに三田村その人で 軍団内では破天荒エミリオ君の方が賢くて強いし キーファーがトップのインテリと考えれば 軍団のリーダーだった彼は6人中3番目の賢さとなる。 真面目さのみが取り柄でリーダーとなった男。 そんな凡人・三田村は真面目のみで貪欲さがなく 映画界から消えていったとかつて大映スタッフは語っているが 1958年大映入社、63年に退社。 そしてTVで主演、または脇役として活躍 70年に日活で映画俳優として復活、72年退社・・・ この歴史を振り返って見ても 三田村はかなり貪欲に頑張っていたことが分かる。 彼の唯一の受賞歴は「ミスター平凡」のみだが その平凡さ、そのままに戦い抜いた男の哀愁よ。 日活ポルノが最後の映画作品、出演作となったが 彼の凡人ならざる凡人の名は「あヽ江田島」等多数に刻まれている。 高橋悦史   渋い男の代名詞。 男は30歳からという格言そのままに 30歳から俳優として映画出演を始め 勢い売れっ子になった。 インテリ一家に生まれ、医者を夢見るが高校で役者志望に。 大学で演劇をはじめ卒業後に劇団入り 最初はNHK専属声優として活躍。 だが同期の役者たちが売れっ子になっていき焦り NHKを飛び出して「文学座」に入団。 まず声の個性(ダンディボイス)が強く 185前後の長身にライオン然した男前。 これは人気出る。 そういう「男」の個性が30になり熟してからの映画デビュー。 デビュー直後の出演が岡本喜八作「日本のいちばん長い日」の井田中佐役。 これで一気に火がつき以降 岡本、薩夫という巨匠の名作・力作に主演クラスで常連になり TVでも数多くの出演・主演を誇って 幅広い演技のスケールと抜群のムードを醸せる貴重な俳優として 映画界・TV界、そして文学座舞台等で重宝がられる。 ライオン然と書いたが 特徴的な鼻はたまにピクピクしており TVドラマ出演の際 鼻くそが浮いて出ていた事もあった。 またまた上に書いたことだが ムード作りの天才。いるだけで映画が締まる。 どんな陳腐な作品でも高級感が出る(日本の首領など)。 両監督の作品は基本老人が大活躍するが そこで中年のパッションを輝かせるのが悦史なのだ。 そう、静を動に変えていく役目があり しかもその「動」は 緻密綿密にクールに遂行される大人のムード醸す「動」なのだ。 イカす。 テロップに出ただけで 「絶対何かやらかすな」という期待も出てくる。 一番おいしい役は岡本喜八の「ブルークリスマス」と 「沖縄決戦」の唯一格好良い軍人・賀谷役。 彼もまた俳優になるべく生まれた個性漢と言えるが 竜崎勝と同様、闘病時期に本を出している(勝本人は出してないが)。 その本でデビューから60歳現在までを語っている。ぜひ買おう。 出版の翌月に癌が再発し死去。 素晴らしい俳優。

  『悪役(顔)』

橋本功   ナチュラルキチガイの名を欲しいままにする 日本が誇る孤高の熱血漢。 こち亀の両津を演じられる唯一の男。 ルックスの上位互換に遠藤征慈がいるが 彼の演技的キチガイではなく 功の、バスの座席に普通に座っている健常者かと思いきや いきなり叫びだしそうな雰囲気のが真に迫っている。 キチガイだけでない人情派も彼の大きな個性だが これほど米俵とハチマキが似合う男もいないだろう。 沖縄決戦でもキチンと下町根性を見せ付けた。 若者たちのDVD座談会で橋本功のみほとんど語られず 圭からも「功さん」とか聞かないので おそらく渥美寅の様な人だったか、性格が悪かったか それともカメラの前以外では顔が死んでいる様な人物だったかは ともかく不明である。 しかし、橋本功の演技から見える 「常に上昇気流」という座右の銘は永遠に輝く。 ケン・サンダース   邦画が最も愛した黒人俳優。 東映でチンピラ役を多く演じ 「893愚連隊」で幸せへと駆け出す好青年役が印象的。 しかし最もなベストアクトは勿論「東京湾炎上」であり 静かな熱気に包まれた大人のサスペンス映画に唯一 「動」の熱気を演出。キレッキレ。 ただ日本生まれ日本育ちだから英語は話せず 南のテロリスト役で出演していても英語は流暢でなかった。 これまたキレッキレなJAPANESE英語で 丹波イングリッシュと国際交流する。 しかし「東京湾炎上」の大コケで彼の俳優としてのその後は降下し 他の黒人俳優もブレイクすることはなかった。 もし「東京湾炎上」が当たっていたら ケン・サンダースはもっと日の目を浴びていたかもしれない。 彼の無限の可能性を閉ざした 70年代邦画界の混乱は何とも形容出来ない後味がある。 綿引洪 竜崎勝、天知茂と並ぶ 俳優になる為に生まれてきた男。 その圧巻の強面は 何故彼が「全盛」にヤクザ役を演じなかったか 何故もっとA級映画で悪役をやらせなかったのかを 本気で考察させる程。 妙に華奢なのと、背が170チョイというのが 顔の存在感をより際立たせる要素となっている。 ただの強面でない 病的で屈折しきったインテリジェンスな雰囲気。 その個性が活かされたのが 「超高層ホテル殺人事件」のみなのは寂しい! 森本誠一の映画で注目されたワケだが 翌年に森本原作のTV「腐食の構造」にも出演。 いつも通り悪の手先で、そしてまた高架下で射殺される。 高架下の男。 郷 ^治   シリコン宍戸錠のヤベェ弟。 長身で狼顔のドス声――アナーキー。 黒沢年男とは血を分けた兄弟。 一般の知名度は「仮面ライダー」か「新幹線大爆破」だろうが やはり日活が健全さを失いダイニチになってからの暴力映画に真価が。 日活時代はそこそこ2枚目だったが 徐々にキチガイ、サイコパスな顔になっていった。 そして秩序を失っていた時代の ダイニチと東映に共鳴、怒涛の大活躍。 真の代表作は 「野良猫ロック 暴走集団」や「0課の女 紅い手錠」になる。 日本人離れしたルックス その長身を活かす異国風ファッションに身を包み サングラスをかけて銃をぶっぱなす! という 狂ったニューアクション時代を代表する悪役として存在 0課の女は、もはや怪演でない激演と呼べるものであり 郷の代表作が本作と押す人間が多いのも分かる。 真に迫ったキチガイ、狂人とは 実際こういうヤツなのだという説得力ある芝居。 基本仲間想い家族想いな、ブラコンとも言える 情の高ぶりが愛おしいナイスガイだが 女がいたらすぐさま強姦に走るという二重人格。 そして 仲間を愛する反面、裏切られたと思ったら鬼の様な形相で抹殺する。 特に勢いあるのが 愛する弟が裏切り行為を働いたのを見つけた時の表情。 悪漢の本性が、心が揺れ動く瞬間を完璧に表現。   そして撲殺したのちの表情。 キチガイ顔が一気に2枚目に戻る。   そして熱血の号泣。 この時点で本作の主役は郷の手に落ちた。   こうした極めつけの役と演技をやったものの 一般的なこれといった代表作はついぞ出ず 俳優業に限界を感じたのか 1977年以降には映画出演をやらなくなった。   しかし 1982年の角川ハードボイルド巨編「化石の荒野」で5年ぶりの復帰。 地のインテリジェンスを メガネとフィンガーレスの手袋、そして一張羅で締め付け 渡瀬恒彦と対決する中盤までの敵として個性を見せるが 映画そのものの不出来と大コケの現実でか、これを引退作とする。 日活以降の映画での活躍ぶりはジョーより派手。 20年間、余りに濃い役者人生であった。 竜崎勝 俳優になる為に生まれてきた男。 竜崎勝という強烈な芸名に引けをとらないガチガチのルックス。 180cm越えの長身、痺れるダンディボイス。 男くさいルックスそのままに 人情と義にあふれるキャラクターを演じた。 高島名義でない 竜崎名義で出演した映画は全て名作・問題作だが たった4本(+1)しかないのは寂しい。 というのは元々肝臓が悪く 70年代後半にも一度壊していたというのもあって 身体は丈夫な方でなかったから 長期間の撮影を控えていたのかもしれない。 結局、肝臓を病み彼は亡くなるが 彼の病室での奮闘と最期を書いた「役者の戦死」は名書である。 竜崎勝の紳士なふるまい、インテリジェンス 著者と語った死生観、子供たちへの熱いメッセージ等々。 著者が「こんなに立派な男がいたのか・・・」と感動し書き下ろした 竜崎ファン必見感涙の本、これぜひ読もう。

  『東映熱血チーム』

千葉真一   日本が世界に誇る正統派アクションの化身。 国内ナンバー1の正統派熱血漢であり、その魅力は日本だけにとどまらず 世界各国の映画キチガイどもにサニー・チバの名称でもって知られている。 ともかく正統派。 余りに熱すぎる正統派・正義のアクションスターであるが 行き過ぎればカルト的な狂気にも繋がる。 であるからサニー千葉ヤクザ4部作 「仁義・広島死闘篇」「沖縄やくざ戦争」「日本の首領」「沖縄10年戦争」 そして千葉・青春の結晶「戦国自衛隊」の5作品で 自身の強大すぎる戦闘能力により平衡感覚を失い 狂った後に壮絶な自滅を遂げるクレイジーな「漢」をそれぞれ激演する。 何をやってもインパクト大。 場面にある全てを葬り去る熱血アクトを用い 60年代〜80年代までを全盛に疾走、千葉真一は永遠です。 (追記:渡瀬がやんちゃで千葉が正義漢というイメージだが 千葉の方がイカれてたらしい。) 夏八木勲   千葉真一を愛する野生のダンディマン。 知性を帯びた男くさいルックスと長身を武器に 70年代の映画界を席捲。 60年代の男くささのみを武器にした20代から フリーとなってTVメインにもまれまくった 70年代の30代後半から 「ムサい知性派」として猛進撃を開始したのだ。 ただ70年代角川での活躍は目覚しかったが 助演した「人間、野生」と映画そのものへの評価は低く 主演の「白昼の死角」も公開当時はウケず 大活躍した「復活の日」も思ったよりヒットせず 久々の悪役をやった「化石の荒野」も大コケ。 一連の出演作から「大看板だが中身スカスカな役者」という 評価を下されなかったのかは不明。 どちらかと言えばTVの方が 重厚な中身に合う企画が多かった。 白虎隊とか富豪刑事はイイ。   千葉と組んで良心的アクションの代表格であり いくら悪役をやっていても「絶対いい人」な雰囲気は隠せない。 だから悪役アクション渡瀬との決闘を果たした 「化石の荒野」では、夏八木を応援してしまうのだ。 「いい人」千葉と夏八木が組んだ作品群は全て名作、力作揃い。 あゝ同期の桜 白昼の死角 戦国自衛隊 復活の日(千葉が友情出演) リメインズ 美しき勇者たち(友情出演) 中でも白昼と戦国は終始絡んで 物語のオチまで担当する友情具合。 コイツラがいたから「青春」の二文字は浮かなかった。 渡瀬恒彦   ワルい人。アナーキー。 いい人っぽい評価だが、個人的には 「ずっと生意気なガキ」こんな感じ。 男前で頭がよくて、喧嘩は最強クラスという どこの国の人間でも調子に乗っちゃえるスペックの持ち主で 東映でもそういう気質を見抜かれてかイケイケヤクザな役が多い。 千葉の正統派アクションとは違って アナーキーな血なまぐさいアクションを担当。 千葉真一とは沖縄やくざ戦争から赤穂城断絶、戦国自衛隊と 殺し殺される重要な絡み役で共演したが 渡瀬が死んでも千葉からコメントがなかったので おそらく仲は悪かったのだろう。 渡瀬も新幹線大爆破のムック本で 「千葉ちゃんとスタントやるのはいいけどね 能書きが長いのよ。あれ聞いてんのがやでさ」 と千葉ちゃん呼びだが辛辣。   熱血で饒舌な千葉真一と クールで寡黙な渡瀬恒彦ではまさに水と油。 さらにアクションの色の違いも合わさって そんな異色の個性のぶつかり合いを期待しての 映画での起用、共演だったのだろう。 つまり当時から彼らは「真逆」と知られていたのだ。 代表作は間違いなく「戦国自衛隊」の矢野隼人。 クールで寡黙で生意気だがすこぶる格好良い、こういう役。 どう考えても渡瀬のイメージそのもの。 また千葉を取り巻く夏八木との三角関係も描かれている。 ヤクザ的な俳優の条件である「笑顔が素敵」も キチンと備わり「皇帝のいない八月」では劇中それが活かされた。   喧嘩最強らしいが、ぜひコイツラと戦ってほしい。 千葉、夏八木、藤岡弘、細川俊夫、松田優作、水谷豊。 この人もまた育ちが違えばヤクザになっていたはず。 幹部で。 (追記:荒れた芸能界の中では渡瀬が締め役にならないといけないという 状況を失念していた。すんません。)

  『松田優作と仲間たち』

松田優作   可能性の男。野獣。 彼の押しの強さとワンマンぶりは 凋落しきっていた80年代邦画界を支える原動力となっており そんな彼の死により 日本映画界はドン底へと突き進む事となった。 最後のキャラクター俳優であり もう二度と「蘇る金狼」や「野獣死すべし」を 同一のカリスマブランドでやり遂げる俳優は出てこないだろう。 そういう意味でも松田優作はスゴイのだ。 可能性と書いたが 「常にグレードを上げたい、同じところでとどまりたくない」 というのが彼の信条であった為 アクション俳優→追われる役→生活感のある役→日本の松田優作 →アメリカをピストルで撃ってやる!→ハリウッド映画「ブラック・レイン」出演 という底抜けバイタリティの発露を成し遂げる。 最初3つの異なる境地を無謀と言われようが最高のグレードで演じきり その実力で世界進出への足がかりをも見事掴んだ後の、無念の死。 アメリカでの成功をついに見ることは出来なかったが 彼が生きていたら間違いなくアメリカの第一線で戦っていただろうと そう気後れなしで言えてしまうのは 彼が見せ付けた「可能性」の賜物である。 彼は日常系にハマりこんでからアクション時代の自らを 「役者」じゃなかったと語っているが やはり松田優作は屈折したスタイリッシュ・アクション物に真価がある。 監督の世界に収まるのでなく、若い監督と共同で世界を作っていった時 彼の日本離れしたルックスとフィーリングとが より一層魅力的に映える、そしてその時こそ松田優作は役者として活きるのだ。 本人は違うと思っていても思わせぶりな日常演技より 「野獣死すべし」の客の呼べない演技の方が魅力的だ。 顔つきからコリア、韓国系なのは理解できようが 特にジーパン刑事だった頃の笑い顔など「かなりキツく」 そういう血の濃さを見ることが出来る。   演技も容姿もどんどんと変わっていく男であり だからこそ松田優作史の区切りは非常に分かりやすい。 第1次優作。人間の証明の頃。 第2次優作。肌が白くなる。 ここまでがパーマ。 熱血はなくなり色々とシャープになった。   第3次優作。 「野獣死すべし」で歯を抜いて、日常系に入り 先妻と離婚してからは全く別人の種になった。短髪。   死の断崖の頃 第4次優作。最終形態。 ブラックレインの頃。死臭が漂う。 髪型が賛否両論な感じだが、パンチの効いたヤクザ像としてはあり。 ア・ホーマンスヘアーなら文句なしだったが・・・。 ちなみに家族ゲームで共演した伊丹十三が大嫌いで アホ、勘の鈍い人などの言葉をインタビューで放っており 彼が監督した映画も「血が通っていない」と辛辣に非難。 彼の押しの強さと犯罪的な程の映画への熱狂とで 邦画史上に例を見ないほど破滅的な「共犯者」が集まり 当然の如くに完成した破滅的な映画、に写っている松田優作は 危険味とユーモアを存分に(何にも縛られず)披露した。 いくとこまでいった俳優、 そういう境地もまた彼が最後なのである。 やっぱり「蘇る金狼」「野獣死すべし」がベスト。 水谷豊   雰囲気がヤクザ。 ドラマのイメージで温和な人間と勘違いする人がいるだろうが バラエティ番組に出ている際の、あのピリつき感。 ちょっとした粗相でも声を荒げそうな空気を醸す。 松田優作より短気らしいが、全く理解できる。 20代の頃のクスリでもやってそうな涙もろい熱血漢の役は 渡瀬恒彦と同様、最後の若さを一気に呈したもので 30代以降は燃え尽きたのかの如く 「ヤクザ」ばりの寡黙な短気野郎になった。 中学の数学教師がこういう雰囲気だったが 一体どういう環境で育てばこうなるのだろうか。 代表作「青春の殺人者」「逃れの街」「東京湾炎上」 原田芳雄   類稀な役者センスを、最高の監督による 多くの上質な作品群で磨かれ 誰にも邪魔されず俳優として独自な進化を遂げ続けた 恵まれすぎる役者人生を送った運の良い男。   日活ロン毛時代は ワイルド系だが妙に中世的で、母性を感じるムードを醸し これまた前世で兄弟だった松田優作と同様可能性の塊だったが フリーとなってからは肝臓がやられたのか ドス黒い肌と濃すぎる野生フェイスとで ただ「強烈にムサい」色気を醸すオッサンとなった。   終始アウトロー俳優として活躍していたが 素顔は温厚その物、善人、徳の高い人物。   萩原健一   松田優作の元アニキ。優作曰く「人間と神の間までいってしまっている」男。 最初はアイドルグループのボーカルだったが、監督志望になり 助監督としてついた「約束」で何故か主役デビュー。   その強烈なカリスマと 破天荒だが繊細という当時若者たちの共感する個性を買われ 「太陽にほえろ」「傷だらけの天使」等のTVドラマに 主役として出演し、一気に全国区のスターとなる。   映画でも「股旅」「化石の森」「青春の蹉跌」「雨のアムステルダム」 と全てが成功したワケではないが、ショーケンの孤独なオーラとイカし過ぎたルックスで これら作品群を観るべきものにしている。「青春の蹉跌」で映画スターの地位を確立。 70年代前半のTV界を引っ張っていったスーパースターであり それは彼の若さゆえのセンスによって成り立っていたが 70年代後半になると演技派へと路線変更を試み   「八つ墓村」で、自身初の大衆娯楽映画への主演。 そして攻めから受けへのキャラクター変更を打ち出す。 その後は「影武者」「誘拐報道」と30代半ばの ピリピリしたムードと狂った色気により快進撃。     ただ20代の天才感は映画、TVでは取り戻せず その勘を歌手として振るうことにより「ショーケン」を成立させる。 しかし調子がよかったのも80年代までで 以降は薬やトラブルな地が災いして、第一線から退き 晩年は4番目の妻とおだやかに過ごしていた。 恐喝やイビリがイメージダウンと叫ばれているようだが 個人的には憧れるような大人でのカリスマではなく 「どうしようもないクズ」だったからこそのショーケンだったように思える。   だからある意味イメージ通りなのである。 不器用なのか意図的なのかは分からないが 急上昇・急下降を繰り返し、定まったイメージに収まらない どこまでもわけのわからない男こそショーケンなのであった。  

  『スタンダード』

三上真一郎   小津の忘れ形見。 最初は松竹の青春スターとして活躍。 小津の「秋日和」「秋刀魚の味」に出演したりして 順風満帆に清純俳優としての大道を進むが 65年にフリーとなってからは俄然 妙に癖が強そうな性格を感じさせる大顔を活かし 正義漢だけでない卑怯、ずるがしこい男を演じた。 小津が俳優としての個性を見出した事からも 色付けするなら全くの白色、つまりスタンダードの魅力を持っており どんな役でも多彩に だがメインを食わない控えめな「普通俳優」として70年代を駆ける。 渡瀬恒彦とは「仁義なき戦い」一作目で彼の兄貴分を演じて以降 「決戦航空隊」では熱い兄貴分、「皇帝のいない八月」で副官 「戦国自衛隊」では渡瀬に射殺される先輩隊員を演じるなど 70年代の渡瀬恒彦の共演者としては 菅原文太や千葉真一、山本圭等と共にかなりの頻度で共演した。 一番強そうな役が「頂上作戦」。 一番おもしろそうな役が「戦国自衛隊」。 中尾彬   その芸術的な容姿と個性を映画界において フル発揮出来なかった不遇のスタンダードマン。 しかし、あくまでフル発揮出来なかったというだけで 腐らせていたワケではない。 元より日活の「都会的2枚目キャラ」では影が薄く 70年にフリーとなってからは20代ながら 考古学を研究する大学講師で主演した「内海の輪」や 岸田森の和製ドラキュラが見所の「幽霊屋敷の恐怖」に主演したりと ジャンル選ばず、持て余していた「アーティスティック」を振るう。 しかし作品としての評価は本人の熱演に関わらず不評で お茶の間の知名度としては、もっぱら 私生活やプレイボーイキャラが浸透した。 そんな折、75年のATG「本陣殺人事件」でヒッピー・金田一を好演。   和服でもなければ、これまでの様な背広でもない 下手を打てば酷評されるだろう、ジーパン・ジージャンかつ ネックレスまでつけるヤング金田一を臆することなく 自身の現代的なインテリジェンスと陰りある風貌で演じきる。 作品自体の評価も良く、本作が 横溝映画ブームの先陣をきったという歴史的事実も込みで いよいよ中尾彬の演技者としての地位を確立。 フリーとなってからの中尾彬の個性として 芸術家、プレイボーイ、そしてインテリ、知的なムード。   この3拍子が大きい。そして本陣以降の個性としては「長髪」。 この長髪は芸術家然していてかなり格好良い。 ハッキリ言って短髪彬はショボい、個性がない。 デブで長髪。コレがイイ。 ・・・それらの個性をようやく発揮出来る機会に恵まれだした彬は その後も「本陣」の高林監督による「西陣心中」などのATG作品をはじめ 角川「白昼の死角」というメジャー大作で東大中退の犯罪者役   東映のカルト大作「日本の黒幕」では 田村正和らと共に異色キャストとして、右翼攻撃隊長役で登場したりした。   高校の先輩である千葉真一との共演も多く 「白昼の死角」「燃える勇者」「伊賀忍法帖」がある。 単純なエンタメには出演せず 硬派な作品への出演においても地味な役でしか登場しないという 「通好みの俳優」といった評価はとうとう覆せなかったが TVバラエティではおもろい変なオッサンという大衆的人気を得る。 個人的には、えらく落ち着いてしまった感があり つまらない。   やはり「本陣」から「伊賀忍法帖」までが 俳優・中尾彬としてのベストなのだろう。 山崎努   努兄ィ。骸骨マン。 東京都立上野高等学校夜間部を卒業し 俳優座に入り、59年に入団。 その強烈なルックスと孤高な気性が大いに買われ まずは青春映画で顔を売っていき、63年に黒澤明の「天国と地獄」の 凄まじい恨と意志を秘めた未曾有の誘拐犯に起用され、それを熱演。一躍注目を浴び ハードボイルドタイプの俳優として完成。   当時は赤面症で人の目をマトモに見れない繊細な男だったが その後は刑事モノなど、硬派な男性像を表現する作品に多数出演。 70年代に入りTVシリーズ「必殺仕置人」で 念仏の鉄なる人物を演じ代表作とするが 映画では「赤ひげ」以降、実のところ不調で 77年の「八つ墓村」の要蔵役で一躍カムバック。今なお語り継がれる名声を手にする。   80年代に入ると「スローなブギをしてくれ」などの感性の若い作品に出演したり 一連の伊丹十三作品の常連、主演格として、いわば売れっ子となる。 しかし齢50、色気も枯れ、みんなの人気者になっては 既に山崎努の強烈な「凄み」が消えてしまった。 だから、努の全盛はデビューから「お葬式」までだったのだろう。 もっと言えば「八つ墓村」まで。   売っ子になるまでの屈折と焦り、そして遊びがイイのだ。 特に70年代初頭、30台半ばで出演した現代劇 「富士山頂」「顔役」「人間標的」「黒の奔流」は 山崎努の強烈なルックスにいよいよ色気が付加された瞬間の作品群で 73年以降「必殺仕置人」でTVに専念するまでのたった4、5作は 山崎努最後のかっこいいハードボイルド作として、メチャ重要である。 藤岡弘   生きていたサムライ。 余りに濃すぎるルックスと性格と声とで 70年代をバッサバッサと踏破、切り捨て御免! この雑多で矛盾に満ちた現代社会でも 武士道を貫く男の中の男。   ムサ苦しいイメージだが 70年代前半は、まだまだ2枚目であり 角度によってはイケメンとも呼べる。 身長180cmで足が長くスタイル抜群。   あまり頭はよくないんだけど、だからこその純粋さ。 同じ野獣組の優作とは違うくそ真面目なアクションぶりで走る。 「野獣狩り」で初主演、そして「野獣死すべし」「大空のサムライ」 藤岡弘の純粋さは20代だけのものであって、後は胡散臭い・・・ とまではいわないけど、あの頃の一本気は失われたような気がする。 芸能界屈指の戦闘能力を持っており この正義漢にぜひ渡瀬と戦ってほしかった。(ゴールドアイで共演) 神田隆   ミスター東大。 人をバカにしてるような顔つきからか嫌味な役が多い。 学歴と妙な貫禄からベテラン臭プンプンする男だが 47年「安城家」での演技は本当にヒドく これによってスターへの道を絶たれたらしい。 おそらく批判されまくって 必死に演技の勉強したのでは。50年代以降の活躍ぶりはすごい。   そんな人生の変革を見ることが出来る貴重なフィルムは 当時キネ旬ベスト1位をとり堂々DVD化、今なお 神田の醜態を晒し続けている。 代表作は前総理大臣役久米明と握手を交わし 次期総裁として悼辞を読み幕を閉じた「金環蝕」。 それにしても死に方が悲しい。 小笠原弘   新東宝に光臨した本格正統派2枚目。 代表作は「叛乱」のバイタル栗原役で 以降も「潜水艦ろ号」「日本敗れず」「明治天皇」と活躍するが そこには個性なくただの2枚目としての起用だった。 1956年以降は映画出演はほとんどなくなりTVメインで活躍。 2枚目でも狂気でも「叛乱」で見事見せつけたように 演技基礎はしっかりしており、芸名が変わったぐらいで 映画出演がなくなってしまったのはアア不幸である。 ホントに、顔つきは大ベテラン・名優の貫禄があったのに 知る人ぞ知る人となったのは悲しいね。 仲代達矢   全盛期における真価は山本薩夫3部作だと思う。 中でも「華麗なる一族」が個人的にはベスト。 あれは泣ける。 殺気を醸していた時期では炎上。 一種の古典的役割を演じて、しかもその典型が 以降の同類演技者を越えていた。 松田優作の前妻による三船本では 「三船さんともそんなに親しいワケではないですし」 という血も凍るピリついた関係を感じさせる文章が載せられたが 近年、仲代は三船賞なるモノを受賞。 若い頃「酔いどれ天使」にイカれちまった興奮を語るなど 既に往年の厳しさはなくなったようである。 小林勝彦   大映に君臨した正統派2枚目。 いかにもな清純派2枚目で 聞き心地良すぎる美声と共に大映青春路線を盛り上げる。 同期入社に野口啓二がおり 最高殊勲婦人や江田島で親友役を演じた。 大映退社後はフリーでTVや吹き替えで活躍。 以降映画出演はほとんどなく残念だが それでも余りある美声を強力な武器に 様々な超大作のTV吹き替えを主演で務めまくった。 ミッドウェイでも三船の吹き替えを担当するなど 俳優兼声優野郎の中でも トップクラスの演技力を認められての事だろう。 様々な吹き替えを担当しても これといった代表作や専属俳優もなかったが スターウォーズ新三部作からパルパティーンを演じて いよいよ本格的な代表作を発見したかに思われた。 だが、パルパティーン大暴れ、大活躍、フラストレーション開放の 「シスの復讐」公開直前に病に倒れ死去。 これは非常に残念である。 小林パルパタインで無限のパワーを見せてほしかった。 とにかく美声、これ以上ないぐらいの美声。 三角八郎   大映が誇る最高の3枚目。 丸井太郎と同期入社だったが 何故彼らにもっといい企画を運ばなかったのか 大映には文句が多い。丸井はTVで派手に人気が出たが 三角は地味な3枚目として地道に細々と俳優を続けていた。 大映での代表作は「江田島」のみ。 3枚目だが賢いといった ハマり役ばかりの江田島メンバーの中でも特に 地を感じさせる印象的なハマリ役を担当。(八郎は法政大学卒)   退社後は藤田まことの劇団で地方を回ったり ダイゴロウに助演したり、TVで活躍していた。 時代劇、刑事モノにイイ役で出演。 大映時代よりはるかに人気になり、茶の間に浸透。 死なないイメージだったが 亡くなったときはショックだった。

  『個性派脇役』

横森久   ミスター美声。 知性を感じさせる社会派顔と美声とで セリフの説得力は格段に増す。 だが俳優業においては 美声を意識的に抑え ダンディなオッサンという存在感のみで頑張る   ・・・頑張ろうとするが美声が口から漏れる。 そう特筆すべきは吹き替え業。 津嘉山正種、小林勝彦と並ぶ美声野郎であり 断絶のJ・Tが横森だと勘違いしてしまったのも 彼の年齢を超越した色気ボイスに問題があった。 (そして彼と話し方、トーンも同じなのだ) 1969年収録「慕情」が現在聴ける最初の氏の吹き替えだが 当時40歳の美声から始まり「007」 47歳の「戦闘機対戦車」で艶やかボイスは最高潮に達した。 アニメでも有名。 「アトム」の天馬博士の声は久。 結局映画やドラマでの代表作は出来なかったが 一番知られているのは黒澤の「悪いやつほどよく眠る」だろうか。 若者たちの続編にもクレジットないが出演しており 二百三高地にはクレジットありで出演しているが 誰が久なのか未だに分からない。 最後に丹波に諌められた将校が久? まあ、扱いは悪い。 けど吹き替えではスーパーマン。 地味だが堅実なオッサン、それが久。 日下武史   ミスター美声。 久と違って俳優業でも積極的に美声を押し出す。 「暗殺」ではそれが上手く活かされていた。 インパクトある顔だが妙に小顔で気味悪い。 仲代達矢から殺気を抜き取り 湿ったムードのみを残したのが武史だ。   ともかく声が良くて、吹き替え業が有名・・・いや こなした数が多いと言う訳ではないけど リチャード・ハリスや「アンタッチャブル」など ハマり役や代表作があったという点で久と違っている。 有名っちゃ、有名?一般的な知名度は多分ない。 近年武史の吹き替えが収録されたDVDが多数販売されているが 中でも「戦場にかける橋」はパーペキ。 大脱走のドナルドはオジキが吹き替えていたが 今回武史が吹き替えた若いインテリ軍医役のドナルド。 そんなドナルドが劇中に演じた 「インテリの若者特有の批判的なムード」を上手く表現。 新録では似た声のヤツがやっていたがカス。 ING感覚でドナルドの名演をぶちこわした。 映画での大役は「不毛地帯」、または「ときめきに死す」。 地味なムードそのままに 単純娯楽作品には参加しないヌーボー漢。 久と武史の声 吉田良全   近藤正臣の親友。禿げ。 1944年石川生まれ。京都の洛南高校出身。 おそらくそこで近藤正臣と親交を結ぶ。 彼との共演は「国取り物語」で 正臣演じる明智光秀を刺し殺す農民の役。   総集編しか残ってない国取り物語だが 最後のシメというかクライマックスのおいしい部分なので 彼の容姿は総集編フィルムにもキチンと収められている。 そこから正臣主演「動脈列島」「超高層ホテル殺人事件」 正臣出演のTVドラマにも大体出演している。ホントに。 格好良さの極致と醜さの極致。 彼らの関係は まさしくスティーブ・マックィーンとドン・ゴードン。 映画の知名度的に おそらく吉田の最も有名な映画は「麻雀放浪記」。 宮城幸生   東映の座敷わらし、守護神。 大部屋俳優の中でも特異な存在感。 仁義5部作全てに役柄を変え登場するが ヤクザになる男、警官、殺されるヤクザ 入院中ヤクザ、ヤクザに金を盗まれる一般人 とヤクザ映画に必要な要素全てを演じているという奇跡。 伝説の一作目での主要人物になり損ねた感はスゴい。 ヤクザになってからは、いるにはいるがセリフはなく 文太発砲の最後まで親分の隣にいたが、2作目以降「杉谷」は出ない。 多分死んだか堅気になったのだろう。 2作目では警察、3作目では殺されるヤクザ(壮絶なヒットからの死)   とチョイ役ばかりで、本作出演はもはや深作の温情かいなと思いきや 4作目の瀕死の組長役はしっかり物語に絡む重要な役。 5作目はまた振り出しに戻り 売り上げを盗まれる台詞のない親父役だった。 「決戦航空隊」や「日本の首領」「鬼流院花子の生涯」他多数の東映大作にも 台詞一つ程度の顔見せだけだが登場。 決戦航空隊のはキチンと文太が台詞を拾ってくれたので良かった。 やっぱり一番印象的なのは「893愚連隊」の 「タダ乗りや!」だろう。 伊東達広   松竹の忘れ形見。 桐朋学園から俳優座に入ったエリート俳優。 宮城幸生が知性を得たようなルックスから 東映出演やヤクザ役も少なくないが やはりルックスでない素朴なフィーリングを活かす松竹こそが 彼の真の居場所なのではないだろうか。 「皇帝のいない八月」はともかく 伊東の魅力を最大限映し出した 「俺たちの交響楽」が彼の代表作なのは間違いない。 素朴、病弱、インテリ ともかく本当に工員やってそうな等身大な男を演じた。

  『ヤクザ』

安藤昇 リアルヤクザ。 現在でも芸能界はヤクザの巣窟だと言われているが 本職が映画の主演を張っていた時代があったという悪夢。 しかも彼をデビューさせたのは東映ではなく「松竹」。 どんな時代だよって、ねえ。 鶴田浩二と同様、男の「哀愁」を背中と表情で語らせたら 天下一品。 それは高倉健でも辿り着けなかった境地。 つまりは声だ。妙に甲高い声。 鶴田も安藤も さらにはマイト小林も艶のある声。 そう、叛乱の細川俊夫でも書いたが 映画的な威厳は厳しい顔に太い声となる。 しかし現実的な威厳は 厳しい顔に高い声なのだ。 細川俊夫の軍人役にリアリティがあるのはそこだ。 三船の五十六は映画的なイメージだが 山村總のは現実的なイメージなのである。 現実的な、等身大の哀愁。 まあ3人ともヤクザと懇意じゃけえ リアリティ出るのは当然。 松竹では善玉役を振りまいていたが 東映に入って才気爆発。 アウトローヤクザや、その親玉として 破滅的な東映ヤクザ映画に全力を注ぐ。 「仁義なき戦い」に出演しなかったのは残念だが 「実録・安藤組」があったため、ノーカン。 79年の引退前には、より広く芸域拡大しようと 唐十郎の「玄界灘」があり、黒犬の主題歌と共に最後の傑作とする。 顔の造詣とインテリジェンスはまさしく ジェームズ・コバーン。 ただし身長は天と地ほど差がある。 鶴田浩二   「美学と哀愁」を背に破滅する男を 演じる為に生まれてきた人間。 この人もまた時代のアイコン、特に負の面。 東映に入社し個性を身に着けて以降は 幸せいっぱいのラストはまず考えられず 冒頭、中盤と男の哀愁(何度目!?)を画面いっぱいに漂わせながら 最後に、壮絶に死んでいく、または転落していく ホント美学の塊みたいな役がほとんど。 だが演じる役とは裏腹に俳優としての態度は 傲慢、クズ、夜這いの常連、田岡組長と義兄弟 嘘つき、スキャンダルの帝王 と 「人間としてどうか」のレベル。 しかし邦画ナンバー1の寂れたムードを持ち合わす男であり ヤクザとの付き合いも含んで 本物の迫力を出せる男優として最期まで戦い抜く。 三船、三国、丹波らと同世代のスターであるものの 彼等の様に外国映画進出はついぞならず 東映以外では、質の悪いB級作品に甘んじる日々が長かったが 一人地味に 日本の泥沼地獄を永遠描き続けた功績は、誇れる。 恥を忍んで泥をかぶる漢が鶴田浩二。 無法松とは無縁の映画人生が彼の俳優を物語っている。 70年代の代表作は「決戦航空隊」「日本の首領」

 
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