ポルノの女王 日本SEX旅行
              1973年  中島貞夫 作  

ポルノの女王 日本SEX旅行

 

  バクダン製造という風変りな商売に腕を振うビッコの青年、もぐらこと五味川一郎は、女に異常なほどの興味を抱いていた。 裸女の姿を頭に浮かべながら盛り場を闊歩する一郎は、すれ違う女に声をかけるが、すべて失敗。   京都じゃダメだとばかり、ご自漫のポンコツ・カーで東京・羽田へやって来た。 そんな一郎を日本の麻薬密売組織の一人と誤解したスウェーデン娘の運び屋イソグリット・ヤコブセンがポンコツ・カーに乗り込んで来た。     棚からボタ餅とばかり一郎は互いに言葉が通じぬままに一路京都へ。 イングリットは一郎の密室に連れこまれた時、始めて不審を抱き、逃げようとするが、すでに遅く、自制力を失い野獣と化した一郎に犯されてしまう。 その日から監禁状態となったイングリットの一郎に対する気持ちは、軽蔑から憎悪へと変っていた。 逆に、すっかり彼女の肉体のトリコとなった一郎は、炊事、洗濯、買い物と彼女のために尽くすのだった。   ある日、一郎が街へ出たスキに脱け出したイングリットはネオン輝く都会をさまよい歩くうちにヒッピー詩人神山という、語学堪能な男と知り合った。 神山は彼女をマリファナ・パーティーへと誘った。すっかり神山を信用したイングリットだったが、やがて彼らの罠にハメられたことを知る。 散々凌辱された挙句、朝の街に放り出されてしまった。 その頃、一郎は狂ったように彼女を探していたが、運よく京都の街をさまようイングリットを見つけた。       再び一郎の部屋に戻って来たイングリットの心には、いつしか一郎を慕う気持が宿っていた。     二人きりの生活が幾日か続いたある日、ニュースでイングリットが麻薬犯罪容疑で警察に追われていることを知った一郎は、 彼女の身をかばおうと必死になるが、時すでに遅く、日本の密売組織にアジトがバレてしまった。   さらに警察がイングリットを連行しようとした。「わいらの城、壊さへん!」怒りをこめて、一郎は手製のバクダンを投げつけた。 が、バクダンは逃げ惑う警官たちの前に、不発のまま転がる。一郎の顔が絶望に歪んだ。 「俺はどこまで駄目な男なんや、俺の人生、不発やった」と、同時に、凄まじい大爆発が起った……。


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仁義なき戦い・代理戦争を神経症により外した荒木一郎1973年の東映主演作がコレである。   まずキネ旬のあらすじには間違いがいくつか。爆弾製造は商売ではなく、趣味。商業は車の整備士。 ラスト、俺の人生不発なるセリフはない。そして大爆発は鑑賞者の感覚による。 天才・荒木一郎と、盟友・中島貞夫コンビでは「血桜三兄弟」に並ぶ傑作とされる本作。 血桜でやったキャラクター・モグラを発展させたキャラクターを演じる荒木一郎。   荒木。芸能一家に生まれ、幼少のころから人間を理解する男。女優の母に連れられ子役デビュー。以降役者として存在感を出す。 学校では友達とバンド。作詞作曲を既に手掛ける。主にドラム担当。男にもモテ、女にもモテた青山の学生はオール1の成績ながらも 趣味の切手で切手グランプリを取得。その甲斐あったか適当に卒業。卒業後は芸能界でのギャラアップのために歌手を目指し 適当に曲を作ったら大いに受け、若者のチャンピオンとなる。日本最初のシンガーソングライターが誕生。 そのまま役者としては、男にもてる格好良さと、「無意識ヌーヴェルヴァーグ」的演技が持て囃され一躍時代の寵児となる。 硬派・大島渚から軟派・中島貞夫まで願われて起用され、もはや敵なしの状態。   しかし70年代に入る前に事件を起こし以降神経症に。 70年に入り再び芸能界に舞い戻った男は、新しいダーティーなイメージを創造。東映において共演者として渡瀬恒彦を育て上げ 日活にポルノ女優を卸し、内外問わず汚れ役を引き受ける。   そしてダーティーなイメージが70年代邦画の虚無的な世界観と完全にマッチし、俳優としての評価も完全に定まった。 その中の一本が本作である。 血桜三兄弟モグラに続いて長髪の荒木。短髪で地味顔の60年代荒木しか知らない人なら驚く変貌。かなり格好いい。   ↓   本作はスウェーデンからやってきたリンドバーグを迎え入れた東映ポルノ映画である。ポルノ映画というのは濡れ場さえあれば、後は何を描いてもイイ という映画監督たちにとっては夢のような仕事場である。当然中島貞夫は濡れ場より荒木の魅力を醸す方に力を入れた。   本作はストックホルム症候群を早い段階から取り扱った作品としても有名である。 爆弾づくりが趣味のモテない男が外人を拉致して犯す。徐々に二人は良い仲となり、荒木は男らしく進化していく。 しかしマフィアや警察がやってくる最後の土壇場にて彼女すら守れない荒木。静止。 だが、彼女の悲鳴に導かれるように爆弾を手に取ると「爆弾やぞ・・・わいらの城壊させへん」と思いきりぶん投げる。   しかし爆発しない。目を開けると、転がっている爆弾。突き飛ばされた警官が頭から血を流し死んでいる。 向こうで彼女が警官たちと一緒にこちらを見ている。   どこにもないのさ どこにもないんだよ 汚れた都会に 生きてける とこなんか そうさ 笑っていたのさ 笑っていたんだよ 悲しい顔した 人たちが 意味もないままに・・・       ラストの一分間の荒木の芝居は哀愁を越えて、色気がすごい。あの地味な荒木はいずこへ。   ・ ・ ・  




  自嘲じみた笑みが最高である。基本ドライな演技が多い(ヌーヴェルヴァーグ) 荒木の唯一の抒情的フェイスアクトと言っていいだろう。 そして爆発――あれは脳内のイメージなのだ、破局の。破壊しか自分にはないのだ、という虚無の世代の叫び。 しかし破壊すらできなかった・・・この惨めさ。荒木一郎入魂芝居、中島貞夫入魂のポルノ映画である。


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