愛を失った男 
石森宏明
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薩夫の演出とか思想とか一切抜きにしてナチュラルマインドで眺めていると ここまで生々しい人間が主役の社会派サスペンスってのは中々存在しないんじゃないか。

これが石森宏明だ

  35歳。レザー旬報記者。キメてる髪型。

劇中の活躍

                

午前12時の博多
レザー旬報10月号に記事を載せる靴工場の 野口社長と談笑、広告料の問答。 野口社長が新しい素材のブーツを探す際に見せる石森の態度は、 ちょっと高圧的だ。 title=
半開きの口、椅子にだらしなくもたれかかった姿勢ーー そして半開きの目で野口、靴、野口と見合わせる。目が合うとすぐに笑顔に戻る。 ザ・業界人というやつだ。 その後事務員が来て冷水を石森の前に置き 「寝台特急は満員だそうですから、さくらなら・・・」の台詞の際、 またも不快な表情を見せる。 title=
事務員の方を凝視しながら。 どういう事なのか? 「寝台特急が満員〜」の部分で苛立つなら 別に事務員の方を向かなくても良いはず。 アングルからして野口からも当然表情は分かるし、 まさかビジネスの場ではやらないだろう。 なら別の点か。 しかし水の置き方にも不手際はなかった。 事務員が社長と客人に大事な用件を話す事にも、何ら不思議はない。 最後に考えられるのは、事務員の声が余りにキュートだったので 顔を見たら案外イモっぽかったから苛立った、という説。 しかし直後、事務員を見ながら笑顔で了解の返事をした事から その説も違うとみていいだろう。 俺が最も適切だと思う説は、最初に挙げた「寝台特急は満員〜」の部分。 まさかの部分で怒っているのだ。 そう。野口から軽蔑的表情を見られても 事務員に顔を向けられたとしても彼はどうでも良かったろう。 ビジネスの場でもすぐ感情を顔に出す男。 title=
相手を睨みつけても、相手がそれに気付いた時どういった反応をするのかを 全く理解できない人間なのか。 そして少し高圧的だ。 これは上記の野口とのやりとりでも分かるし、その後のやりとりでも分かる。 広告料がちょっと高いとつつく野口に「嫌ならやめても良いが、どうする」と石森は話す。 この点はビジネスでもあるし妥協出来ない部分である。 少し態度はでかいけど気にならない。最後に笑ってフォローもしたしね。 だが全体的に・・・どーも発言に棘があるようだ。俗に言う上から目線? (補足しておけば、おそらく石森と野口が会うのはこれが初めてである。) 以上1分程度に過ぎぬ初登場パートだったが 薩夫の名演出で、冒頭のやりとりを適当に観るか真剣に観るかで 以降受け取る石森の人物がそっくり変わってしまうのだ。 俺は初見時、冒頭のやりとりをそこまで重要視していなかったが、 何度も見返す内に石森という人物の異質さを理解した次第だ。 重要視しなければ、普通だと思っていた石森がどんどんイカれていく様に驚き 最終的には擁護出来ぬ程の衝撃を受ける事となる。 しかし重要視していれば、ああこんな男なのかと初登場の段階で理解できる。 以降の情けない役割も納得出来、失望もないのだ。 以上まとめると、石森は高圧的(神経質)で 人の気持ちが理解出来ない人間、という事である。 少なくとも普通の一般市民像ではない。 早速ヤバイ。開始10分初登場でコレ。 開始15分
石森は博多から妻千秋に電話をかける。 title=
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妻からは「あなた」と呼ばれる。おそらく2階建ての一軒家。 妻の趣味からか結構明るい内装である。 電話の内容から、石森は後2つ仕事が残っているらしい。 そして事務員から言われた通り「さくら」に乗って帰る予定を話す。 さらに今仕事の予定が延びている事も分かり 妻の発言から、おそらく同じ靴下を2回履いてるか 何も履かず直で靴を履いているとか。 妻との会話からも、仲のよさげな雰囲気を感じる。 11時半には東京に着く、土産を楽しみに。 と話し電話を切る石森。 このパートに関して言えば、石森に対し全く悪い感情が 湧かないばかりか妻千秋に対しても横柄な態度を取らない、 つまり亭主関白でなかった所に拍手したいぐらいだ。 妻からバカにされても普通に笑い、完全に対等な立場である。 開始16分
車内の江見が、橋上を歩く石森を発見。 立ち止まり芝居がかった風に息をつく。 いかにも暑そうに、スーツからハンカチを取り出し 汗を拭き、再び歩き出す石森。 title=
ここで分かる事と言えば、汗をかいた際には 某橋本功の様に手や腕で軽く拭く事をせず いちいちハンカチを出す、育ちと品の良さである。 そして江見とも何かしらの関係がある事を示している。 開始21分半
江見の娘杏子の家で、江見が杏子に石森を見た事を話す。 人ごみを歩く石森の映像。 title=
聞いて呆然とする杏子。 江見は石森の現在を「3流の業界紙で働いている」と発言。 杏子は「今は藤崎の妻で石森の事は忘れた」と話す。 ここで分かる事と言えば、父子共に石森と関係がある事。 特に杏子は「妻」との発言をするに至るなど 過去の深い関係が示唆される。 そして最も大事なのは「3流業界紙」発言である。 驚くべき事に、石森の勤めるレザー旬報は 業界内で微妙な立ち位置の雑誌だったのである。 もしかすると、石森がビジネスで妙に高圧的な理由は 単なる社会的不適合者という説ではなく 3流雑誌社に身を置いている自身に自暴自棄になって 仕事に取り組んでいたから、ともとれる。 開始から25分半
博多駅、既に18時。 さくらの切符「2号車3番」を受け取り 「どうも」と去っていく石森。 小森と風間に付けられる石森。 しかし30秒で存在に気付く石森。 title=
感覚が研ぎ澄まされているのか、ともかく感知能力に長けている。 (単に自意識過剰か?) 駅内の店で舞妓人形(多分5000円?)を購入。 title=
小森と風間の様子で分かる通り 結構時間をかけて選んでいた様である。 この点は妻への甲斐性が示されているから、良い所である。 その後も付けられては振り向き、付けられては振り向きが続き 18時59分発のさくら号が到着。 結局小森と風間が石森を呼び止める。 石森は両者に対して冷静に会話をこなす。 切符が売り切れている事を嘘だと見破ったり 彼らの足元を、靴を見て 自衛隊員であると見破る事からも 石森が洞察力と観察力が優れているという事が分かる。 title=
妙な2人組に拘束されても、冷静な態度で接する事が出来るのは 彼自身が勇気にあふれているからか、 それとも怖いもの知らず(ただのアホ?)だからか。 もしかして高圧的な性格が出たか? 直後、駅内にいた杏子と偶然目が会う。 title=
杏子はしばらく驚いた様子で立っていたが踵を返した。 石森も驚いたようだが彼女の方へ行こうと飛び出し 小森と風間に止められるが振りほどいていく。 出発寸前のさくら号に駆け込み乗車した瞬間扉が閉まり 深く息をつく石森。 title=
地獄のロードが始まろうとしている。 開始30分
自分の席を探す石森。 すぐ見つかり荷物を置いて何度もはあはあと息をつく。 title=
几帳面に畳んであるハンカチを手に汗を拭く。 すぐさま席を立ち、杏子を探しにいく石森。 直後小森と風間の存在を確認する。(またもすごい) (この両者の動きは中々不自然で  隠れず堂々としてれば良いのだ。) とうとう見つからず、煙草をふかす石森。 title=
石森は煙草を吸う人間である事が分かった。 しかし、何故石森は杏子がこの列車に乗っていると 分かったのか。 杏子とは、あの場一瞬見つめ合っただけで 彼女の目的も行き先も何も知らないのだ。 しかし列車に乗った直後、何故か彼女が乗っていると確信し探しに行く。 ここで、石森は思い立ったら一直線であるとの仮説が立つ。 良い風に捉えたら、真っ直ぐで純朴な男となるだろうが 普通一般的に考えると、頭がファンタジック。バカ。 と、ここに杏子が扉を開け石森を確認した後 覚悟を決めた面持で入ってくる。 石森である事を察し立ち止まる杏子。 窓から外を見る石森だが、ここで二度見して彼女であると理解する。 (ここの二度見芝居は何度観ても「正統派」で笑える) 気付いた瞬間煙草を放り捨てる石森。地面に。 なるほど石森の「思い立ったら〜」な性格が行動に出た。 しばらく見つめ合う2人だが 杏子は「急いでいる」と去ろうとする。 杏子は石森を探している訳ではないようだ。 「待ちたまえ」 呼び止める石森。 「君は僕に五年前の借りがあるはずだ」 いよいよ2人の関係が興味深くなってくる。 だが杏子は「人を探している」と言う。 title=
少し怒っている石森だが 食堂車で待っていると去っていく彼女に告げる。 ここで分かった事は 石森は絶対に汗をハンカチで拭く事(面倒くさがらない) 煙草を吸う事。 杏子とは、5年前の借りという言葉が出て来る程複雑な間柄である。 開始41分半
1人食堂車の席で座って待つ石森。 飲んでいるのはお茶か? 入ってくる人間から顔が見えないよう 1人でいる事が恥ずかしいからか後ろ向きに座っている。 しばらく窓を眺めていたが、杏子が入ってくるや否や 後ろを向きここだと手を上げる。 とんでもなく察しが良いのか、それとも窓からの反射で分かったのか。 すでに空は赤みがかかっていたが 「待っている」宣言の後から 彼はこうしてずーっと待っていたのだろうか。 title=
杏子に、コーヒーで良い?と訊ね 再び重苦しい雰囲気の対面である。 ここからのパートは石森の人物像を探るに 最重要であるから、ぜひとも確認して貰いたい。 「探していた人は見つかった?」との石森の問いに 杏子は静かに首を振る。 杏子は下をずーっと見つめており 何か顔が死んでいる。ホントに。 聞いた石森はお茶?を飲んで、再びグラスを置く。 そして何故か得意げな表情を作った後 「3年前ボクは結婚したよ」と笑顔で話す。 それを聞いた杏子は、 死んだ顔から、驚きか何やら分からない表情で 「そう」と返す。 title=
「足が不自由でね・・・おとなしいだけの女だ」 と、煙草を吸う石森。 「おとなしいだけの女」 石森の性格を知るにはもってこいであり 初登場時のイカれ具合を再確認できる名台詞である。 また石森がマトモであると普通に鑑賞していた人間は 彼がこの台詞を発した時点から、石森を不審に思うようになるのだ。 石森がこの台詞を語った時の口ぶり、表情からして 何やら心底バカにしている感が伝わってくる。 妻の事をこういう風に言うとなれば あの電話のシーンや人形購入のシーンも 石森にとって何ら意味のない事だったと思える。 杏子に対して、何故このような事が言えるのだろうか。 杏子は結婚報告を受けた時ようやく石森を見る様になったが 「おとなしい女」の評を聞いた直後には窓外の風景を見つめている。 「5年も経ったんだ。君を責めようとは思わない」 石森はそんな杏子を見ていたが杏子は窓の外を見つめたまま。 「ただ」 石森が切り出すも 「何もおっしゃらないで」 窓を見つめたまま杏子は言う。 その言葉を受け、自嘲気味にお茶を飲む石森。 そして再び笑みをつくり 「5年前、僕は君を愛していた」 杏子は石森の方に顔を向け 少しばかり悲しそうな表情をした。 5年前5年前と、執拗に石森は口にする。 責める気はないと言いながら「愛していた」女に 自分が結婚した事や妻の悪口を言ったり 結構報告や「おとなしい女」を受けた杏子の表情は 彼に対しての、失望みたいなのもあったのではないだろうか。 「え!?そんな事言うの?」みたいな。 しかし、ここまでではまだ断定できない。 この先のシーンは石森の一人語りである。 そうして、全ての確執が明らかになる
昔、石森は五井物産の南米駐在員であり 当時旅行中の女子大生だった杏子と出会う。 石森曰く   平凡な出会いだったが、暗さを知らない君の姿に僕は惹かれた。 実際に起きたチリ・クーデター(サンチャゴに雨が降るの場面転用) の映像と絡ませ2人手を握って逃げ回る石森と杏子。 title=
(手を握っているのに場面が変わればすぐ離れ離れになる。) 右翼が起こしたクーデターの最中、 2人は無事日本に帰れたら結婚しようと約束した。 と過去話が終わり、窓の外は真っ暗になっている。 ずーっと長い事石森は昔の恋バナを一人愚痴ていたのである。 title=
そして 「何が一流会社のエリートだ。」 「あのクーデターの日・・・市民を撃ち殺した武器は僕が売ったのに・・・」 「右翼軍部に僕はこの手を貸していた」 コイツどこまでぶっこんでくるんだと言わんばかりの 秘蔵自録である。 悲しげな表情で語るが、結局クーデターは石森等五井物産絡みも 協力しての事と判明した為 結婚の約束も反故に出来るのではないか。 笑みを作り、話し続ける石森。 と、杏子は窓の外をずっと見つめていた。 赤が黒になるまで。 「僕は苦しかった」 「君の愛だけを頼りに、五井物産を辞めようと思っていたのに・・・」 「・・・あの日」 杏子を見る石森だが、杏子は窓の方を向いている。 そしてまた下を向き自嘲気味な石森は 「あの日僕は待ってた」 「君に婚約指輪を渡すつもりで・・・」 「銀座の喫茶店で3時間もだ」 と、ここで杏子が動く。 「もう何もおっしゃらないで」 下を向きながら話す杏子。 しかしお茶のグラスを持ちながら続ける石森。 「しがない業界紙の記者まで落ちて」 「やっと君の事を忘れられたと思った」 お茶を飲み、グラスを置く石森。 「・・・でも」 杏子は苛立たしそうに 「やめて」 と、石森の顔を見ながら言う。 石森は杏子の顔を見て、また視線を下げると 煙草を吸いだす。 アングルでようやく分かった事だが 石森の両手のポジションは 右手グラス、左手煙草という風にずっと置かれている。 で、お茶のグラスを見るとほとんど飲んでいない事が分かる。 煙草も減ってない。 煙草を灰皿に置き、意を決したように 「未練がましいだろう」 「あの日一体何があったんだ」 杏子は視線を下げている。 「お父さんに尋ねても杏子の事は勘当した、  杏子の事は忘れてくれの一点張りだ」 「何故君は僕の前から突然姿を消したんだ」 杏子を見つめる石森と黙ったままの杏子。 「杏子さん」 石森は声をかける。 だが杏子は、食堂車の中を見ていた男.矢島(昼間、自宅に手紙を届けに来た) を見つけ立ち上がった。 不審に思う石森。 すでに20時。 まず事実だけを挙げていくと
・石森はかつて一流企業のエリートだった ・石森と杏子は恋人関係にあった ・クーデター中に婚約関係まで2人の仲は発展するも  軍部が市民を撃ち殺した武器は石森の会社が売った物だった ・ある日婚約指輪を渡すつもりだったが、杏子は来ず  その後彼女の父に問いただしても口を閉ざしたまま ・「しがない業界紙」の記者にまで「堕ちた」が  結局杏子の事は忘れられなかった

石森を平和な、普通の一般市民だと思っていた人間は この壮絶なドラマを聞いた時何を思ったのか。 70年代薩夫の作品群の主人公達と言えば 否応がなしに過酷な状況に放り込まれ 彼らの持ちうるそれぞれの過去や生き方、心情が ソコで爆発したり、それらが薩夫の思想を描く為の ドラマとして有効に活用されてきたハズだ。 映像や言葉で語られる主役の過去は、 作品のメインストリームにがっちり関わってくるという事を 我々は、その流れから薩夫の作風として理解してきたはずである。 では石森の壮絶な過去も、 以降ドラマを描くに必然的であったという前提を立てても不思議はない。 しかしここまでの過去が用意された主人公というのは それまでの薩夫映画からして初めてではないか。 彼のドラマがココから先、物語にどう関わってくるか 楽しみでならない。 他にも言及 ・杏子との関係は中々ロマンチックな物であると 石森の語りを聞いたその一瞬は思ったが その直後の発言である。 「武器を売った発言」 何とも言えぬ矛盾を感じた。 バカスカと新情報を明らかにしてくれる石森君だが 例え石森君自身が強行した事柄ではないにしろ 結局そのクーデターの最中に婚約を結んだ訳である。 感情移入出来る場合としては ただの恋人同士旅行→クーデター勃発→何とか助かりさらに深い仲へ しかし本件は 駐在員と女子大生が仲良くなる→駐在員の会社が売った武器でクーデター勃発→何とか助かりさらに深い仲へ そう 石森が例え右翼軍部に力を貸した事を悔やんでいたとしても その事ありきで2人は一線を越えた(婚約者同士になったという意味で)のである。 命がけの経験を経た者同士。関係が発展しない訳がない。 title=
何とも皮肉な物語で。 ・彼は失意から、3流業界紙レザー旬報の記者になった事を 「しがない業界紙の記者まで堕ちて」と語るなど なるほど、野口社長の前で見せたあの態度は そういった現状への不満から表れたものだったのか。 一流会社のエリートだったかつての驕りが そのまま仕事でも不遜な態度として表面化し 高圧的かつプライドが高い人物・石森宏明を創り出したのだ。 +杏子が去ってしまった事も関係しているだろう。 本作の圭には陰り要素が無いと思ったが 一大クーデターに巻き込まれ暴れるまで、 つまり上記の食堂車デートまでの圭は 格好つけて愚痴こぼしたり間違いなくマイナス面で陰っていた。 ・杏子の父・江見とはやはり以前から 面識があったという事である。 日本に帰ってきてから婚約の話等 石森から切り出しお互い懇意していただろうが 杏子の居場所を尋ねてから以降は一度も会っていないに違いない。 江見が石森のウォーキングシーンを しばし驚愕の面持ちで見つめていたのはある意味当然だ。 ・石森と杏子の会話 杏子は「やめて」とか拒絶以外の言葉を発する事を ほとんどしなかった。 「そう」とか、頷くだけとか。 石森の会話の流れとしては 身の上話(妻の悪口込み)→杏子との馴れ初め→自身の不幸話→あの日何があったのか 確かに、5年ぶりにあった元婚約者に対し 急に質問攻めにするのも酷な話である(責める気はないとも言っているし)。 だからとは言え えらく遠回りに聞き出すんだなと感じる。 そもそも身の上話の下りからヤバいだろう。 笑顔で結婚報告、しかも妻の悪口を言い放つ。 続いての馴れ初めの話はOKだが、そこにリンクさせての 不幸話をするのに何とも生々しい女々しさを感じてしまう。 等身大の人間でもあるからメチャクチャな文句はつけたくないが それを黙って聞く(健さん)杏子の表情を見ていると 石森の男らしからぬ態度には共感出来ない。 title=
石森の一方的な愚痴を見せ付けられたが、ここで一つ疑問が湧いてこないだろうか。 石森は、5年前のある日を境に杏子と一切会っていない。 杏子はどうなったか、江見に聞いても分からない。 そこから石森は杏子に対する情報を一つも得ていないのだ。 どうだろう一般的な認識からすると 婚約者がある日突然姿をくらました イコール 自身は振られた あるいは 何かの事件に巻き込まれた と考えるのが普通だろう。 結局の所、現時点でも石森には どっちの理由で杏子が姿を消したのかは分かっていない。 分からないのに、石森は会ったばかりの杏子に対し それこそ当てつけの如く身の上話をし さらに女々しい不幸話までを、一方的にぶつけた。 つまり石森は 彼女には何ら信頼をしていないという事になる。 相手が悪いと、そう決め付けていなければ あそこまでしつこく愚痴を言ったりしないだろう。 「5年前の借り」 この様な言葉も、相手が悪いと考えていなければ 普通出てこない台詞だ。 おそらく石森は杏子が別の誰かと駆け落ちしたのだという 仮説を組み立てたのではないか。 江見に聞いても「勘当した、忘れろ」とその一点張りであったから 何かやましい事をしたのだと考えるのはおかしな話ではないが それでも彼女を信じてやらなかった石森も石森である。 「銀座の喫茶店で3時間」 男らしさも微塵も感じさせぬ「俺は辛かったよ」発言である。 責める気ナシと言いつつ責める男。 かつて愛した女に恥もなく色んな事をぶっちゃける石森。 俺は被害者だ、という姿勢を崩さないからこんな事が言えるし さらに言うならば、やはり初登場時で書いた 「人の気持ちが理解出来ない人間」であると完全に証明した事になる。 正直目つきで分かる。 title=
この完全に相手を疑っている責めた目つきよ。 相手を弱い立場と勝手に設定し さらに弱い立場の人間には滅法高圧的に迫る男。 それが石森宏明であった。 ・杏子の態度 石森の行動を激化させたのも、モチロン杏子の態度によりである。 駅内で目が合ったとき、彼女はすぐに立ち去った。 列車内で会った時には彼女から挨拶したが すぐにその場から立ち去ろうとしていた。 石森ともほとんど目を合わせずに、 ただ「5年前の借り」という言葉を背に受けても 黙って立ち去った。 食堂車に入ってもほとんど話そうとせず 石森の顔をまともに見ようとしない。 石森の自称被害者としての立場を付け上がらせるには 最高の態度である。 つまり石森からすれば、彼女がだんまりを決め込んで 目も合わせないのは 「彼女自身が落ち度があると自分を責めているからだ」 と、こうなる訳である。 申し訳なさを態度で表わしている(と石森は思っている) 彼女に対して、彼は一方的に愚痴を放つ。 後に語られるエピソードで彼女の悲惨な過去が明らかになる。 石森の女々しさアピールにも黙って耐えていた彼女だが 計3回「やめて」発言をしている。 いい加減にして欲しい、と我慢を重ねに重ねた気持ちが出ている。 女性からすれば決して話したくないような過去であるから 石森の責めた言葉にもぐっと耐えていかなければならない。 しかし彼女に「やめて」と3回も言わせているのは 我慢ならない事への反発と、 石森があんまりにもしつこすぎた事へのうんざり感もあっただろう。 普通3回も言わせない。 究極的な事を言うならば、 石森は杏子の「お久しぶりです」という言葉を聞いた後 ただ背を向けて黙っているか、 それとも何か言って彼女を立ち去らせるか、そのどちらかをすべきだった。 少なくとも! 引きとめて食堂車でお話しようとか 30半ばの所帯持ちのオッサンが 5年前の恋愛についてクドクド言うなんて事は 杏子自身予想だにしていなかったに違いない。 しかも女々しい愚痴と責めのオンパレード。 未練がましく。 ・その他 食堂車パート 杏子が拒絶を発した回数 3回 石森がお茶飲んだ回数  5回 石森が煙草を吸った回数 3回 開始47分半。 矢島を発見した杏子に引っ張られて 列車から降りるよう懇願される石森。 しかし石森は拒否する。 「5年前ワケも言わず僕から逃げて、今度はワケも言わず列車から降りろ?」 と、やはり未練タラタラな石森。 「君を責めるつもりはない」と言ったかつての彼は 一体ドコに行ってしまったのか。 「どうかしてるよ君は!」 ここの台詞は「列車から降りる事を懇願する」事への シンプルな返しなのか それとも5年前の確執も交えての発言なのか。 しかし直後「いいの、いいから降りて」と 杏子が返す。 「君も一緒だ」と石森は車外へ杏子を連れ出すも 杏子は「あなた一人で降りて欲しい」と言う。 title=
石森は声を荒げる。 「博多の駅で男が2人、君を見てさくらに乗られてはまずいといった」 「男達は背広を着ていたが自衛隊の靴を履いている」 「話したまえ!君は一体何を隠している、何を怯えているんだ?」 杏子はそれでも「離して」と車内へ入ろうとする。 と、その時。 石森は、線路で何かをやっている男(矢島が爆弾を設置)を発見。 目があった矢島は逃げていく。 車内ドアの窓から確認するが 矢島と2人の男が逃げるようにして線路下を走っていく。 石森は杏子を見るが、杏子は目を逸らした。 ・本場面での最大の収穫は、 石森が疑問の真相を口に出した事だ。 つまり「僕から逃げて・・・」である。 上記で 「何故石森は杏子を勝手に悪いと決め付け、疑いの目と責めた口ぶりであったのか」 その理由を 「杏子が別の男と駆け落ちしたのだ」 と書いたが、間違っていた事が分かった。 石森はちょっと前に「何故僕の前から姿を消したんだ?」と 杏子に質問していたが このパートでは「僕から逃げて〜」と表現が変わっている。 姿を消すと逃げるは全く違う。 例を挙げよう ・男から女が逃げていった ・彼氏から彼女が逃げていった ・彼と付き合っていた子は皆逃げていった カップルに使われる「逃げる」は、嫌われての意味しかないのである。 まあDVとか性格からとか ともかく男から女が逃げるという言葉は、中々複雑な言葉である。 その言葉を第三者が言うならともかく、当事者である しかも男の方から言うのはどうなのか。 つまり本心では「彼女から嫌われて逃げられた」と思っていたのではないだろうか。 一流会社のエリートになった気質とおごりから 『何故命懸けの経験を共にした女が、婚約の約束までして逃げていくのか。』 ただ、その現実に5年間も腹立てていたのである。 さらに「どうかしてるよ君は」の発言が 上記にも書いたように、杏子の言動だけでなく 5年前の確執も関連して言っているのならば 石森は非常に自己中心的な男であると言わざるを得ない 列車から降りるうんぬんは確かに石森の言い分が最もだが その直前の台詞といい、彼女とは初対面でもない事から 比重としては5年前からの怒りが台詞内要素としては大きいだろう。 自己中心的といったが 上記でも書いたように、普通婚約者が姿を消したとくれば 自身が振られたのだ  という事にならないだろうか。 自分に何か落ち度があったのではないか、と考えないだろうか。 しかし石森はあくまで自分が被害者であるとの認識を改めない。 自分に非は全くなかった、と。 石森が怒っていたのは 僕が何か悪い事したのか? という疑問からだったのだ。 そうだ、自身にも非があったかもしれない と少しでも思っていたら 杏子に対しあんなにキツく当たるハズがない。 「どうかしてるよ君は!」=非のない僕から逃げていくのはおかしい 基本自分が被害者であるとの考えしかないから 加害者に何としても愚痴を、怒りをぶちまけたいと 5年前の出来事を35の所帯持ちのオッサンが 「食堂車で待っている。必ず来い」と ねちっこく執拗に求め詰問したのである。 そうだろう、全く非のない自分を嫌い 逃げて行った人間を責めるのは当然だ。 「銀座の喫茶店で3時間・・・」 「僕は苦しかった・・・」 「しがない業界紙の記者にまで堕ちて・・・」 コレが答えだ! ・後、結局は責めているのでどうでもいいが 「5年も経ったんだ。君を責めようとは思わない」発言 つまり、例えば杏子が失踪して1年経たないかぐらいで 何らかの手段で彼と接触を図ったり連絡等しようものなら 彼は大いに「責める」つもりだったのである。 そして杏子より石森の方が当然年上である。 大人なら、男なら 「心配してたんだぞ!」とか 責めるより、心配したり無事を確認したりする事が普通だろう。 ・最後だが、石森の脳内について。 「博多の駅で男が2人、君を見てさくらに乗られてはまずいといった」 と石森は杏子に詰め寄ったが小森と風間はこんな事言っていない。 正しくは 「藤崎さんの奥さんです!」 「マズイな」 である。 杏子がさくら号に乗っているから良かったものの 決して「さくらに乗られてはまずい」とは言っていない。 しかし、何故石森は杏子がこの列車に乗っていると 分かったのか。 杏子とは、あの場一瞬見つめ合っただけで 彼女の目的も行き先も何も知らないのだ。 しかし列車に乗った直後、何故か彼女が乗っていると確信し探しに行く。 ここで、石森は思い立ったら一直線であるとの仮説が立つ。 良い風に捉えたら、真っ直ぐで純朴な男となるだろうが 普通一般的に考えると、頭がファンタジックなバカ。 上記にこんな事を書いたが まさに自分の都合の良いほうに良いほうに 脳内記憶を書き換えていっているとも考えられる。 案外記憶力が悪い? 聞いた話を完全に再現するのは難しいが 少し減らすのはともかく、何か付け足すのは性格か? そういうおっさんおばちゃんいるでしょー

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