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この「白昼の死角」のヒーローの目新しい点は、なんといっても法そのものに堂々と挑戦することだろう。スクリーンにこういう人物を主役として据えるというのは確かに初めてかもしれない。悪党が画面の中心から語りかけてくる時代になったのだ、このこと自体は素晴らしい。これをきっかけにどんどん悪党路線を打ち出すといいだろう。しかし、悪というものをこっそり味わっている映画ファンとしては複雑な心境である。 その複雑な心境のまま、私は東映東京撮影所に、ほぼ最終的な編集を終えたラッシュ・フィルムを見に行った。そして、主演の夏樹勲さんにインタビューすることができた。 昨年、柳生一族の陰謀、雲切任座衛門、野生の証明と立て続けに話題作に出演した夏木さん、久々の主役ということで、取材攻め に遭っていたいたが、私にもわざわざ時間を さいてくれたのだ。失礼な質問や意見にフランクに答えてくれる夏木さんは、ちゃんとしたオトナであった。 現実の夏木さんの方に、映画の鶴岡七郎以上の興味を感じた私は、現在、見当違いなところで心ときめいている。
ラッシュ・フィルムというのは独得 な興奮がありますね。 夏木:「そうですね、裸のままだからね、こう、湯上がりってかんじなのね。これからシャツを着たりなんかする作業があるわけですから。お化粧前の素顔、ということで、ふつう、外部の人にラッシュを見せるということはあまりしないんだけどね。なにしろまだ無防備な、生まれたばかりの赤ん坊という状態だから」
今回のこの鶴岡七郎という役はどうですか、かなりのって演られたとか。夏木:「だれでもるんじゃない、あんなすてきな役をやる時はね。まあどんな役でも、与えられた役というのはそれなりに、いつでも全力投球をするんだけどね、現場へ行けば、いつでも同じなんだけどね。文章で言うと、行間というか、そういうところでのきもちまわりというのが違ってくると思うね。やっぱり、気に入った役を演ってる時というのは役者ならだれでもそう だと思いますよ」
原作はいつ頃読まれたのですか。夏木:「この役の話がきた時ですから、昨年の五月か六月頃かな。昔、昭和三十五年頃は、カッパブックスかなんかで出たでしょ。仲間がボロボロになるまで回し読みしてたりした。ぼくが今度演ることになって、なんだ、おまえが演るのかって。ばかやろうって(笑)。 俺たちの憧れの七郎を、おまえが演るのかって、こっぴどく罵詈雑言を浴びてね」
励ましのおことばじゃないんですか。夏木:「いや、やっぱり罵詈雑言(笑)。 最初は、友だちには黙っていたんだけど、正式に製作発表があったら、皆、読んだ後でいろいろ電話かけてきたの」
役のイメージをうまくつかめましたか。夏木:「いや、これだけ魅力的な大きい人物だとね、実際、どんなつらしてたのかなとか、どんなからだつきしてたのかなとか、いろいろ気になってくるわけですよね。原作を読んだ人がたくさんいて、それぞれに持っているイメージにうまく近づけるかなって、まあ、一種の戦慄というようなものを覚えますよ。」
武者震いというようなかんじですね。夏木:「そういうとことばが良すぎるけど (笑)。やはり、戦慄というか、おののきの方だね」
鶴岡七郎を演じるにあたって、かな勉強なさったですか、いろいろな経済用語とか。夏木:「まあ、参考になる本なんか、はいる前にいろいろ読んだけど・・・・・・。 特に法律の本を読んだり、真剣に勉強するっていうこともなかったけど、法律用語が出てくるからね、友だちに弁護士やってるやつなんかいたりするから、飲みながら、おい、おまえ、これどういう意味なんだよ、なんて聞いたりしね(笑)」
法と大企業を相手に戦いを挑んでいく鶴岡を演じている時の気分は?夏木:「日常生活ではなし得ないことだよね。あれだけ痛快なことっていうのは、ふだんできないというところで、ぼく生活してるでしょ。だからものすごく羨望を持つわけよね。七郎という人間も含めてだけど、生き方それ自体に、強い憧れを感じるよ。演っている時の 感じっていうのは、自分で演っていて おかしいんだけど、憧れながら演っているって感じだね」
自分が憧れるような人物を演じられ るというのは最高でしょうね。夏木:「非常に楽しいよね。戦後の混乱期という時代背景があって、生まれてきたヒーローだろうけどね。そういう時間と空間というものからはずれた人間というのは存在しないものだと思うから。それを現代とダブらせるのは、こっちの勝手なんだけど」
鶴岡がどうしてああいう方の力というものに挑んでいったのかということについて。彼をそういう風にさせたのは何だったと思われますか。夏木:「それは想像でしかないんだけどね、最初はやっぱり遊びだったんです よね。金に困ってああいうことを始めたんでもなんでもなくって。隅田光一だって、鶴岡だって医者の息子だし、飲んだり食ったりする金が欲しくて始めたんじゃなくて、冗談というか、遊びというか、自分たちが法律をならっているからそれが現実の中でどの位役立つんだろうと、ほんとに軽い気もちでやってたんじゃないかな。もちろん、金自体に対する興味がなかったともいえないだろうけど、彼らは、法律専門の学生として趣味と実益を兼ねてやってたんだね。それが終戦を迎えて価値がガラガラと逆転した時、自分した専攻した法というものは正義ではなくて、力なのではないかという認識を持った、そして変っていったんじゃないかと思うね。弱肉強食の動物界と 少しも変らないじゃないか、法は人を守ってくれるものだとばかり思っていたのにそうではないのか、よし、法が力なら俺たちも力で挑戦してやろうじゃないかって思うようになったんだね」
隅田光一の自殺がきっかけで、鶴岡の本格的な犯罪が開始されますが、彼が隅田という天才にコンプレックスを持ったとは思われませんか。夏木:「それはないと思うね。影響は多大に受けてたよね、隅田から。彼が鶴岡の人生の導火線になったというか、隅田から、進むべき方向への啓示を与えられたとかいうことじゃないかな。そもそも鶴岡の中に眠っていたものがあって、それに火をつけられたということで、コンプレックスというのではないと思う」
綾香とたか子というふたりの女性に 愛される鶴岡の魅力についてはどうですか。夏木:「学生の分際でね、最初は大した金もないわけでしょ、それが綾香なんてあんな魅力的な女に、彼女自身の腕に入れ墨までさせる程愛されるんだからね、相当魅力的だったんだろうね。金の力で女を手に入れたんじゃないんだから。 とにかく彼は、社会の規範ではなく、自分自身の規範をもって、その中で生きてくんだから、本当に魅力 を 羨望を感じますよね」
映画を見る人がスクリーンの鶴岡に持つ視点と、夏木さん自身が鶴岡に持つ視点が重なって、相乗効果を生むという気がしますが。夏木:「でもまあ、ぼくはそれらしいつらして演ってるだけで、見る方がそれをどうとってくださるかということは別問題ですから(笑)」
公使館秘書ゴンザレスとの会話では、英語の発音がお見事ですね。相手役のエドワード・J・オルモスが日本 語で、夏木さんが英語でしゃべり合う 場面が多かったようですが。夏木:「オルモスは全く日本語をしゃべれないからね、ぼくが英語でやった方が彼の負担が少ないわけだよね。彼も芝居がやりやすいでしょ。彼がわかることばでやった方が、表情もよくわかるし、そうしないと生きた会話にならないからね。 まあ、基本的には、東大生だから、外人を使うっていうシチュエーションがあった時には、当然、あの位しゃべってもおかしくないだろうってことですね。フランス語でシャンソンを唄ったり、 ドイツ語の唄を原語でやったり、学生時代ってかぶれるもんだからね、そういうかんじですよ」
私はちょっと遊びっ気のあるシーンだなって思ったんですけど、そういうのではなかったんですね。夏木:「うん、でも、そういうのは軽く受けとめてもらえたってかんじはするわけね。その位軽い受けとめ方される方がありがたいんだよね。あ、あそこでちょっと冗談言ってるな、とかね、あ冗談でやってるんじゃないかなっていう方がね、こっちとしてもありがたいというか、楽しいんだよね」
鶴岡の一匹狼的な部分に、私などは強く惹かれるのですが、現実の映画界で、夏木さんご自身、一匹オオカミということを意識なさいますか。夏木:「意識するというか…その方がいいよね。まあ現実には、いろいろな人 の助けを借りて生きてるわけだけど、意識としては確かに持っているよね」
毎日、肉体のトレーニングを欠かさないということですが、それもそういう意思の表明ということですね。夏木:「うんまあ、毎日の確認というか、 証とでもいうか............そういうかんじはありますね。なんか、ちょっとカッコよくなりすぎるけど(笑)」
それにしても、ラッシュ・フィルムって興奮しますね、舞台でいえば、最終リハーサルを見ているみたいでした。夏木: 「そうだね、完成品というのは全く一変しちゃうからね。いろいろな効果音がかぶさったりするし。宇崎君の音楽もいいよね。完成品はフォーチャンネルでやるし、是非、ちゃんとした出来上りを一番いい状態で見られたら いいですよ。せっかくラッシュをご覧 になったんだから、それが最終的にど 変貌しているかを、是非ご覧になってください」