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原一民
シーン9「東名高速道路」は、犯人が第二の犯行予告として、時速二〇〇キロで疾走する新幹線を、走るブルーバードからスピード・ゼロの信号電波を送り、停止させるというはなはだ困難な作業である。豊橋駅構内の脱線を含め、これらのシーンを特撮(ミニチュアー)を使用しない方法で処理してほしいとは山田プロデューサーの弁であった。 しかし、現実には五分に一本という過密ダイヤで走る新幹線、しかも二〇〇キロに及ぶスピードをどう捉え停止させるのか、なおかつそれと同等、否、それ以上のスピードを上げて並走するブルーバ ードを同時にフレームに収めなければならない。先づ新幹線を停止させる事よりも、このフレームについて当初検討した結果、どの視点から見ても無理であり危険この上ない作業になることは必至であった。即ち、新幹線と車を分離させ、カットバック処理をするにしても車側はスクリーン・プロセスかフロント・プロジェクト(前面映写方式で五月にアメリカから購入した、従来のスコッチライト方式より数段の高性能を持つプロジェクターでスクリーン・プロセス的効果をも充分に発揮できる)で可能だが、新幹線向けはどのみちそれに近いスピードで車内 より撮らなければならない。それが不可能であれば、望遠レンズで直線を走ると ころを上からパンする方法等を挙げてみたものの、後説はむしは客観カットに近くなり、停止する描写には可能であるけれど、前述のカットバック、あるいはプロセス用のストリップとしての扱いには不向きである。前説の並走しながら車内より撮る方法にはそれなりの諸問題点が提示できる。しかし、一般車の走る高速道路で、新幹線と平行している場所といえば地図の上でもそうやたらに見つけることは出来ない。事実上は東名高速、名神高速ということになるのだが、各々の道路は平均一〇〇キロで往来する一般車があり、その交通量も決して楽観出来る数ではない。そのような現況の中で、 劇用車とカメラ車が一体となって、エンジンを搭載した車種、さらにカメラを積込みむ車を各車のドライバーたちを選考しながら、現実にどの道路を使用するかを検討。 その時ふと思い出したのが以前宝塚映画の仕事で新幹線をバックに車の走りを撮った岐阜県の木曽川の鉄橋、名神高速が約二キロに渡って五〇メートル近くを全く平行している区間である。 五月の連休を利用して製作係と私の二人でその場所のロケハンに出かける。この国道は新幹線車内から見るか、実際に車で通ってみるしか方法がなく、近くにビルや民家はない。名古屋市内でレンタカーを調達して鉄橋近くまで名神を走 り、高速バスのバス停で待機して、道路幅、交通量及び流れる車のスピードを確認。また新幹線の見通しを調べ、およそ何キロぐらいで通過しているのかを予知する。 その間8ミリカメラで撮影しておき、さらに追い越されるのは当然であるが 一応その積りになった感じで一度走ってみた方はるか彼方に異様に光るへッドライトを確認、およそ二キロ位と思われる時、発車、名神高速に流れ込む。 助手席から8ミリカメラを構える。新幹線と並走し、後半、車が新幹線を追い抜いてしまうという芸とうの危険度はこの上ない。 ではこの危険から逃れるには他にどのような方法があるのか。当時、四月から五月にかけて国鉄は例年、春闘で順法に入り、主要幹線の闘争スケジュールが発表され、特に新幹線関係はスピードダウン走行が組まれていた。これを何らかの手段で情報を入手し、その時点で運がよければ新幹線が停止するショットが撮れるかもしれない。また二〇〇キロ以下にダウンすれば二台の車との並走シーンも可能という思いつきまで出る始末だった。そうかと思えば、海岸線近くを海上からヘリコプターで、車体と同レベルの移動撮影する。これはフロント・プロジェクト用バックと車とのカットバックに使用出来る等、実戦的な案が出た。 危険度の高い事は百も承知だが、実写にまさるものは他においてないという結論に達し、運転する製作係に「無理をするな、どうせ抜かれるんだから、いけるかいけないか感じをみるだけだよ」といい おいて乗ったはずだが、彼はエキサイトして150キロで走行する。 新幹線は一分ちょっとで車に接近、8ミリを廻すが、みるみる追い抜いていく。それを 追い抜いていく。それを追い続け、鉄橋を渡りきった所で8ミリのハイスピードを三倍にあげる。最後部車輌がファインダに入る。その間四、五秒と思われ、瞬間今までやや右手に向いていたレンズが左手に移動している。ズームアウトして全景に切り替えると車の方が速くなっている。原因不明のスピードダウンが確認され、完全に新幹線を引き離してしまうという珍現象が起こった。 新幹線を追い続けているロングから見る 十六輛編成の新幹線は停止寸前。 スタッフが総力を挙げて知恵を出し合って映像 に定着させる最大の疑問が、アッという間に、しかも、手にとる如く見せられた私達は感激と興奮で言葉も出ず、本番に期待をかけた。 この珍現象は、後日調べてみれば"こだま"の次の停車駅が岐阜鳥羽でこの鉄橋を渡ると自動的に制動がかかり、スピードダウンする事実が解った。8ミリの試写からハイスピードの方法によって一五〇キャから一八〇キャで通過する新幹線を途中からスローダウンさせることが出来、さらにそのネガをハイスピード処理すれば、視覚的に新幹線を停止させることが出来る。それにはカメラが横位置よりもタテ位置に入り、望遠レンズ特有のスピード感の無い描写を加味させて、事実上の停止を試みた。 (撮影監督)