渥美さんは一九七二年、自分のプロダクションで『あ、声なき友』(一九七二)という映画を製作した。主演はもちろん渥美さんで、監督は巨匠・今井正さんだ。原作は有馬頼義さんの小説『遺書配達人』。この人は勝新太郎さんの「兵隊やくざ』シリーズの原作者でもある。
渥美さん演じる主人公は、配属された部隊でただひとり生き残ったが、帰国したら原爆によって家族みんなを奪われていた。主人公は、全国各地の戦友たちの遺族を訪ねて、死んだ戦友に託された遺書を手渡して回る。
公開されたとき、ぼくも観に行った。いい映画でした。真面目で、泣かせる話なんだけどね。渥美さんが、
「あなたのご主人が亡くなりました」
と、未亡人に遺書を渡す場面で、お客がみんな笑っちゃうんだって。泣かせなきゃいけないところで、客席から笑い声が聞こえる。
「ガッカリしたな。おれが出てきて、真面目にやると、みんな寅さんになっちゃう」
渥美さん、そう言っていました。
「何たって、おれはみんな寅さんだからよ」
あの言葉には、渥美さん自身にしかわからない哀しみがこもっている。