一武田さんが坂本竜馬を演じる以が登場する映像作品をどう観ていましたか?

武田 「ああじゃない!」と思ってたよ若かったよね(笑)。俺が観たのは北大路竜馬萬屋竜馬かな。

北大路欣也さんと萬屋錦之介さんは、それぞれ「竜馬がゆく」のTVドラマに主演しています。

武田 誰かが坂本やるたびに「違う!」って言ってたから、「龍馬伝」で福山雅治と会ったときは、俺に近寄ってこなかったな(笑)。俺が「お前じゃない!本当は俺だ」ってオーラ出してたんだろうなぁ......。撮影が終わって、福山世話になったな」って言ったら「いやいや。とんでもないですよ!」って恐縮ぶってたけど、最後に福山が俺と握手しながら小さい声で「やっぱり自分でやるつもりでしょ?」って(笑)。「もうやるわけないじゃない!」って言ったんだけど「いや、顔に書いてある」だって。



思想のない奴は軽々と行動する

一武田さんはTVドラマ「幕末青春グラフィティ坂本竜馬(82年)、映画「幕末青春グラフィティRonin坂本竜馬」(86年)の脚本・主演だけでなく、「お~い!竜馬」の原作も書かれています。そこで気になるのが、武田さんの描く坂本龍馬は「龍馬」ではな<「竜馬」という点です。

武田 僕の創作、解釈が入っているの私家版ですということで「竜馬」にしているんです。

一武田さんが最初に竜馬を演じた作品が、TVドラマ「幕末青春グラフィティ坂本竜馬」でした。

武田 海援隊の解散にあわせて仕掛けてやろう、ということもあったと思いますが、意図は非常に簡単でして、俺が33歳だから竜馬をやるんだっていうことで。

33歳といえば、龍馬が暗殺された歳。

武田 そういうアホみたいな動機でスタートしたんですよ。

脚本を書かれる際、武田流竜馬を生みだす苦労はありましたか?

武田 僕が演じるわけだから、英雄として描くのは出来ない。坂本の一側面だった「非常に愉快な男だった」、「スキの多い男だった」という面からから描こうと思ったんですよ。あとは「坂本はそんなにカッコいい男ではなかったのでは?」という捉え方をしたほうが描けると思いましたね。もちろん司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」がベースにはあるんだけど常々、「坂本は、生きてるときはあまり大事にされなかった人だったのでは?って思っていたんですよ。

どういうことですかーー? 坂本のことを同時代の人たちは「ああ、あの便利屋ね」って小馬鹿にしていたと思うんです。そのことで里の友達からも小馬鹿にされるんだけど「いや、違うんだ」って言い返さなかった男。そういう気がしてるんですよ。

TV版では、竜馬が土佐藩をする前から描かれていますが、将来の展望が見えない竜馬が実家でニートのように暮らしている。当然、女にはモテない。 脱落するときも「京都に行って、志士になればモテるかな?」というい動機ですね。

武田 イデオロギーゼロでね。京都で志士がモテるって発想は、青年が「スウェーデンに行けば一発やれるぜ」みたいなアホさだよね(笑)。

ーだから、観ていて親しみが湧いてきます。

武田 屁理屈を言わせてもらうと、イデオロギーを背負っては、あの行動力は生まれないんだよね。理屈を言うってケツ重たくなるもんなぁ。だけど、思想のない奴って軽々と動くんだよな。ブレない奴って意外と皆の迷惑じゃないですか?(笑)日本人って頑張ってブレないようにするけど、坂本ってブレまくってる。でも、ブレるって痛快なんだよ!



人に好かれる奴はスキが多い



TV版の前半、武市半平太(柴俊夫)たちが土佐勤王党の結成に燃え、激動の時代がはじまろうとしているなか、竜馬は近藤長次郎や岡田以蔵たちと「お前はどの娘が好き?」という呑気なボーイズトークで盛り上がっている。でも長次郎と以蔵は「あの人と喋るとホッとする」と慕っている。

武田さんが描く竜馬は、男子が好きな先輩観が満載ですよ!

武田 何気ない言葉だけど、と喋ってると、ワシらなにかホッとするがです」って言うのは男子の社会を形成する中心軸だよ、という時代を考えるときに、イデオロギーで割っていくと、包丁が入らなくなっちゃうんですでもボーイズトークの世界であった。くとスッポンスッポン切れる。だから、坂本たち土佐勤王党を「とある街の暴走族」に例えるとわかりやすいんだよ。その集団の中にはトップ、二番手、新入りという役割があるけど、坂本ってトップじゃなくて3、4番手なんだよ。一微妙に低いポジションですね。でも、「竜馬がゆく」を何度も読み返して変わらない印象は、「坂本は人に好かれる奴だ」ということ。そこで思ったのは、人に好かれるのはスキの多い奴だよね。そこを捉えて物語にしようと思ったんだよ。あと、もうひとつ竜馬について考えさせられたことがあって山田洋次監督と世間話をしているときに、あの大監督に向かって坂本龍馬話をしたことがあったのよ。

「幸福の黄色いハンカチ」(77年)に出演したときですか?

武田 そう。俺ははじめての映画出演で、芝居できないからロケの最中、ときどき監督室に呼ばれるんですよ。山田監督はストーリーを考えだすと、僧の如くうずくまって動かなくなっちゃうのね。誰も声をかけられないから、監督たちにからかわれて、俺が押されてて行く(笑)。部屋に入って正座したら、監督がコーヒーを淹れてくださったんだけど、巨匠を前にして何の話をすればいいかわかんないじゃない。「好きなタイプはどんな女ですか?」とか「松坂慶子はどんな女でしたか?」なんて聞けないしさ。ボーイズトークはできないわけですね。だから唐突に「坂本龍馬ってのは立派な人なんですよ!」ってそうしたら優しい監督で、「あ(笑)。ぁ、そう」って聞いてくださったもんだから、手前ェが芝居できないくせに「僕は坂本龍馬が偉いと思うんですよね!命がけで日本のために頑張ったんですから!」とか言ってたら、たったひとこと「意外と楽しかったんじゃないの?」って...ガクンときたんだよ。「そうっすかね?」って聞いたら山田監督は「そうだよ。楽しくないと出来ねぇぜ?」って。そんな目で坂本のことを見たことはなかったから。

重要なヒントをもらったと

武田 だから、TV版では楽しそうな竜馬を描いた。「祇園でパーティやってるから参加しない?」って現代に置き換えると「ワンフーの女の子いるから来ない?」ってロック系のノリだよね(笑)。それだからミュージシャンを使って描きたかったの。

確かに音楽関係のキャストが多い作品ですね。高杉晋作役を吉田拓郎さん、桂小五郎を小室等さん、伊藤博文を井上陽水さんというように長州藩の面々をフォーライフレコードの方々が演じたのには驚きました。

武田 そうそう。あいつらモテてるしさ、なんかイイじゃん!だから高杉晋作は吉田拓郎じゃないと駄目だったんだ。パーッとパーティやると芸妓たちが集まってくるけど、そういう楽しさの中で高杉が持ってる狂気や孤独は、彼じゃなきゃできないと思った。それに、高杉の「狂ったが如く行動しない限り、こんな国なんか消えてなくなるんだ!」という絶望感これは志士たち全員にあった想いだと思いますよ。でも坂本はというとボーイズトークの世界で、やっぱり楽しそうにしている。

TV版の竜馬が勝海舟(石坂浩二)に会いに行く動機も、遊ぶ金ほしさに勝海舟を斬りに行くわけですが、これって早すぎたオヤジ狩りですよ。

武田 竜馬にしてみれば、早くパーティがしたいから、とにかく名のある奴をたたっ斬って、そのことを自慢したいんだけど、なんだか勝海舟のほうが楽しそうなんだよね。金髪姉ちゃんのエロ写真は持ってるし、アメリカのことは知ってるから。

竜馬が白人のエロ写真を見て、アメリカを感じるという展開には驚きました。

武田 僕が作る物語は全部そうなんだけど、ちっちゃい物にストーリーが全集約していく。それは、竜馬の土佐皇党の仲間たちに下駄ではなくブーツを履かせてやろうっていう想いもそのひとつ。

土佐藩は身分階級が厳しくて、竜馬や武市たち郷士たちは、下駄を履くことが許されなかったから。

武田 映画版では、竜馬がシンパシーを感じる長州の騎兵隊の哀れな百姓上がりの兵士たちがいる。その兵士たちは苗字を持ってない。「死んで三途の川を渡るときに不便だろう」って竜馬が苗字をつけてあげる。そういうボーイズトークのような感覚のなかにいながら、絶えず人間の基本にぶつかり、そこから人間を汲み取っていくような形でドラマにならないかな?という想いがあったんです。



フォークを殺すのはGSである



「幕末青春グラフティ」はTV版、映画版ともにキャストが異色ですね。TV版は竜馬暗殺シーンからはじまりますが、暗殺犯を沢田研二さんが演じていました。

この配役はどのように決まったんですか?

武田 沢田さん、何を思ったか簡単に引き受けたんだよなぁ。俺たちも横着だから「ナベプロの奴がちっちゃいブロダクションの奴を殺したってことにしようや」って。あとは出演者をなるだけミュージシャンにしたかったの。ミュージシャンの世界を坂本に置き換えたら「フォークを殺すのはGSだろう」って。

土佐藩主の山内容堂をビートたけしさんが演じていたのも驚きました。

武田 「容堂公は誰がいい?」ってなって、「やっぱり怖い奴がいい。出てきたらバカっぽい奴が良いな」ってことで「ビートたけしに声かけてみようか」。映像に興味を持つ前のたけしさんだったけど簡単に引き受けてくれて。あのシーンは、河合(義隆)監督がたけしさんにOK出さなくてね。手前にいる土佐勤皇党の面々が頑張ってね。

武市たち土佐勤王党の面々が容堂に、勤皇攘夷を直訴するシーンですね。

武田 あのときの撮影で、俺はアイスキャンディーもって陣中見舞いに行ったんですよ。ビートさんにご挨拶しに行ったら、狂ったようにセリフ覚えてるのよ。河合がそうとう締めあげたからビックリしたんだろうなぁそれで土佐勤王党の開崎哲馬を演った矢崎(滋)の野郎、俺が持ってきたアイスキャンディーを手に垂らしてるんだよ。「何やってんだ?」って聞いたら「アリが来るのを待ってる」って。つまり殿様に対してを何時間も下げてるからアリが行列で手を遣う。それを聞いた皆が「最高じゃー!」って喜んでアイスを垂らしたのよ。そしたら河合が「撮らないもんねーそんなの!」って。ひでー監督だよ(笑)。

一竜馬の妻となるお竜を夏目雅子さんが演じていましたが、これは武田さんにとって念願のキャストだったと聞いていますが?

武田 そう。俺が口説いたんだ。ちょうど伊集院静とデキてた頃だったから色っぽいのなんの。こっちは知らなかったからなあ・・・・・・(笑)。吉田拓郎も「あれが夏目?」なんてさ。ホント、可愛いんだ。イイ女でさ。



男は愛嬌で繋がっていく



とにかくキャストが魅力的な作品ですが、個人的にグッと来るのが、同田以蔵役をサンハウスとショットガンのドラマー、浦田賢一さんが演じていることです。

武田 浦田は九州の音楽の仲間。ツーカーの仲だったから、女の子を追っかけまわしたりするときにツルんでたんだよね。あいつはロックだけど、フォークに理解を示してたのね。マコちゃんあたりは知らん顔しやがったね!あの野郎!(笑)

マコちゃんって鮎川誠さんですか!?

武田 そうそう。鮎川の野郎、久留弁しか話せないくせにかっこつけやがって(笑)。「ノリが悪かもんね-!フォークは!」とか言ってさ(笑)。で、TV版は俺も若かったから無茶苦茶なキャストを考えたんだけど、長州藩には吉田拓郎さんたち華やかなフォーライフー派がいて、竜馬の周りは九州のパッとしないロック系の奴らにしたの。だからテレビと映画版に陣内(孝則)も出ているんだよ。

陣内さんはロッカーズ解散直後ですよね?

武田 そうそう。泣かず飛ばずでさ......。それで面白いもんで、福岡では伝説があって、ひとつは「音楽を志す」。ヒット曲を出して、チューリップの財津和夫のようになろう。ヒット曲のない奴はとにかくドラマに出て武田のようになろうって(笑)。

あの...怒らないで聞いてほしい質問があるんですけど.....。

武田 なんでも聞いてイイよ(笑)。

以前、某パンクバンドの方々と飲んだとき、「かつて武田さんはTHEMODSの森山達也さんにエロ本を買いに行かせたことがある」という都市伝説を聞いて、皆で本当かどうか議論したことがあるんですが...本当ですか?

武田 あったなぁ(笑)。本当だよ。本当だったんですね!これは大スクープですよ!

武田 森山は後輩です(笑)。俺と浦田がイイでしょ。浦田の子分は俺の子分なわけだ。

浦田さんの後輩といえば山部善次郎さんもそうですか?

武田 そうそう!それから石橋(凌)。あいつ、俺とは仲良くしたがらないんだよ!

どうしてですか?

武田 石橋はよぉ、ロックの誇りがあるからな!浦田と俺がツルんでるとブーっと膨れてさ。それでも陣内が裏切って来たわけだよ。陣内は「先輩、やっとフジテレビでレギュラーもろうたです!」って言ってきて、俺も「お前も歌はバッとせんが、芝居だけは俺が教えてやっから!」って偉そうに言ったら、あの頃はあいつも可愛らしくて「よろしくおねがします!先輩!」って。そういう中で石橋は遠くにいるんだよ。あるときフラッと(原田)美枝子ちゃん連れてきてさ。「よか女ひっかけたやないって言ったら石橋がムッとしながら「やっぱ俺も先輩のほうに行くとでしょうね」(笑)。

予言は当たりましたね。石橋さんも後に「龍馬伝」に出演しますから。

武田 そういう自分たちの青春のありようを幕末に置きかえようと思ったんだよ。これは決して悪口じゃないんだけど、北大路さんと萬屋さんの「竜馬がゆく」を観て思ったのは、「司馬遼太郎を追いかけるのはやめよう」と思ったんだよ。あの小説に出てくる坂本を演じれる人はいない!容姿的にも、男にも女にもモテるって無理だよ!俺が坂本をやるとすると、男にバカにされて、女にもバカにされてる奴をやったほうが坂本になりうる。バカにされているスキの多さが、それが愛になっていく。男って最後は愛嬌で繋がっていくんですよね。容姿で繋がらないんですよ。容姿はイデオロギーや思想になっちゃうんですよ。思想のかっこいい奴はルックスがいいんですよ。そうだろ?



男のみっともなさに女は愛嬌を感じる



-TV版の後、武田さんの竜馬はTVドラマ「幕末青春グラフィティ福沢諭吉(85年)の特別出演を経て、遂に映画「幕末青春グラフィティRonin坂本竜馬」に登場します。

武田 映画化に関しても言いだしっぺは俺ですね。TV版が放映したとき、皆でワイワイ観たんですよ。河合という無茶苦茶な監督の演出に、陣内たちも相当腹立ってたと思うんだけど、終わったら笑い話になっていてね。それで皆で放送を観たら、なんか良いんですわねえ。ただ当初は、ああいう作品を作ろうと思ってたわけじゃないんですよ。出来上がったら、意外な作品になっちゃったんです。

と言いますと?

武田 これは俺の人の良さもあると思うけど、オープニングを観てると誰が主役かわからないんだよ。竜馬だけではなく柴俊夫の武市が主役にも見えるし、那須信吾(阿藤快)、吉村虎太郎(原田大二郎)も主役にも見える。

-「幕末青春グラフティ」シリーズは群像劇のような趣がありますね。

武田 だからグラフィティなんですよ。他に映画をやろうと思った動機は、TV版で悪い夢を見ちゃったのよ。石坂海舟と一緒に安い合成のセットで咸臨丸に乗ったじゃない。

一竜馬たちが、勝海舟に船上で航海術を学ぶシーンですね。

武田 安物の船のセットの上で、六分儀もって天空を測るシーンなんかを撮ったんだけど、竜馬と仲間たちの後ろに抜ける海ってのがもうね、合成だけど良かったのよ!海を背にした竜馬っていうのを本物の海でやりたかったんですよ!

それで映画版では本物の海どころか撮影用に本物の黒船を作ったんですね!

武田 そうそう。なんも理屈なんかなくて「船、船」言ってたんだよ(笑)。

まんま竜馬じゃないですか。

武田 その絵をたまらなく撮りたかったのよ!映画化に到ったのは、その情熱だけですね。

-映画版の前半は、長崎で亀山社中を経営する竜馬たちの姿が描かれますが、バイト生活に明け暮れる竜馬たちは、上京したバンドマンたちのようでした。

武田 俺の描く坂本は、絶えずミュージシャンの匂いがするんだ。ミュージシャンを重ねると坂本はわかりやすいんだよね。TV版で、竜馬と袂を分かってんでいった土佐勤王党のメンバーを演じた柴俊夫さんや阿藤快さん、浦田ーさんが、映画では竜馬と行動を共にする亀山社中のメンバーを演じてます。このキャストは泣けました。

武田 坂本についてはどうしても私的な感情がダブるんですよねぇ......。

-映画版で僕らが好きなシーンは、故郷からの手紙で、土佐勤王党の仲間たちが皆殺しされたことを知った竜馬が、海が見える丘の上で、亡き友たちに向い「すまんなあ、みんな!ワシだけ生き残ってすまんなあ!」と号泣するシーンです。 このシーンの撮影は1週間かかったと聞きますが本当ですか?

武田 河合監督の厳しさもあったんだけど、時代劇で海を撮ることのあってね・・・・・。監督はやっぱり映画だから画を引きたがるんですよ。そうると・・・・・・。

余計なものが映っちゃうんですか?

武田 そうなんだよ・・・・・・。丘の上に行って、いよいよ芝居をやろうかってときキャメラを引いた瞬間に対岸にガードレールがあったんですよ。それ以外にも芝居の都合、天気の持ちもある。やっと「今度はイケる」と思ったら海上で、タンカーが沖の嵐待ちで止められちゃったのよ。そしたら河合が「船どけろ!って話になっちゃうわけ(笑)。待ちの苦しさが絶えずあった戦いでしたね。「龍馬伝」で、同じ海のシーンを撮ったらしくてさ............。だからね、「龍馬伝」の撮影のときは映画のことを思い出して来たね!

この悔しさは君たちにはわかるまい!というと?

武田 キャメラ引いたら送電線が映るのよ。「送電線だよ!」って言ったらCGで消しますから」って言われたよ。悔しい~!「船来たよ!待とうか?」「あ、消しますから」(笑)。余談になったけど、映画は時代劇を海にもっていったばっかりの苦労を背負うことになったんですよねぇ。だけど必死になってやったんじゃないかな?

丘の上のシーンでは、その後号泣している竜馬が通りかかった高杉の愛人おうの(浅野温子)に「げにまっことすまんけども、膝を貸しとうせ」と頼みますね。武田さんの竜馬は、TV版でも夏目雅子さんに同じことをお願いしていましたので、相当こだわりを感じたのですが?

武田 男が最もみっともないところを見せた瞬間、女がそこにたまらなく愛を感じる。愛嬌とは何かといえば「弱さ」。それは坂本を辿っていくと感じますよ。坂本は本当に弱さを持ってる人ですよね。それを直感的に感じたのは、竜馬がお姉さんにあてた手紙。その前お姉さんから来た手紙がどうも竜馬を罵倒してあったらしい。「武市を殺したとなんで会ったんだ?」って。

身分階級の厳しい土佐藩で、上士に虐げられていた郷士の龍馬が、上士の後藤象二郎と組んだときですね。

武田 そう。「お前、里でなんて噂されてるか知ってるか?坂本は銭欲しさに上士と手を組んだ」なんて手紙をもらったらしい。それで龍馬がムキになった。「私一人で天下のことをするよりも、土佐二十四万石とやったほうがいいじゃないですか。姉さんはそんなに簡単に言うけれど、隊士ひとり雇うのにどうしても年間最低五十両は必要なんです」って(笑)。

リアルな問題ですね。

武田 泣けるよね!やっぱ諸経費のこと考えたらしょうがないよ!経費のことまで姉の手紙に書くって、この男はそうとう可愛げのある男。なんだかジーンとくる男なんですよ。

-映画の見せ場は、幕府の大軍勢VS海援隊&長州藩連合軍です。ここで竜馬たちはゲリラ戦を展開するのが面白かったです。

武田 そこに関しては、僕は間違ってないと思っています。考えてみれば、幕府軍が細川藩サイドに2万人でしょ。高杉サイドは500人ですよ。勝つわけがないんだよ。あのとき、細川藩はガトリング砲も持っていたのに、竜馬たちが勝っちゃってる。それは戦闘として成立した戦いじゃなく、運のよさが坂本たちに味方してる。戦争の最中に、将軍徳川家茂が死んじゃって、細川藩は闘う面目がなくなったから兵を引いたんです。僕の竜馬は説得しにいきますけど、細川藩は憎々しげに「幕府なんて倒れるもんじゃない」ってあざ笑う。そこから竜馬たちが努力をするという思いで作ったんですけどね。



竜馬役はミュージシャンに限る!



「龍馬伝」で武田さんは勝海舟を演じましたが、劇中、海舟と出会った龍馬が「咸臨丸はありますか?」と聞いたら武田さんが「あるよ」って優しく答える。

あのシーンは、長年、武田さんの竜馬にお世話になってきた僕らにとっては、龍馬道の先輩が若龍馬を導いているように思えて泣きましたよ!

武田 演じながら興奮してましたよ。でも、福山君はクールだったね。「先輩、そんなに興奮すると切れちゃいますよ」って(笑)。あの「あるよ」ってセリフは、女房曰く「40年の思いがこもってる」と。1年や2年で言えたセリフじゃないんだよね。

以前、ラジオで聞いたんですが、武田さんが竜馬を演じてから、龍馬を演じる方々は、必ず武田さんに挨拶にくるそうですが本当ですか?

武田 そうそう(笑)。「いや俺のもんじゃないから」って言ってるんだけど・・・あの不良の浜ちゃんもだよ。

浜田雅功さんが「竜馬におまかせ!」(96年)に出演するときですね。

武田 「兄さん、えらいすいません。今龍馬やりますねん」「俺のもんじゃないよ!」「いや一挨拶に」って(笑)。それから上川(隆也)君も来た。

TVドラマ「竜馬がゆく」(97年)ですね。

武田 上川君はDVDになったときに、「実は龍馬やったんで...あの、ごめんなさい」って。そのとき、もう1本DVDくれてさ、それが新撰組なんだよ。「そりゃあんたやりすぎだよ!」って(笑)。どっちかにしたほうがいいよな!

その上川さんは「龍馬伝」では竜馬と共に暗殺される中岡慎太郎役を演じています。

武田 でも運命を感じるんだよ。上川君とは「功名が辻」(06年)土佐藩を作る役を演じたんだよね。中岡役で上川君が来たときに「一緒に作った山内家を今度は壊そうね」って。しかも功名が辻」には、一緒に山内家を作ったメンバーに香川(照之)君もいたんだから。

不思議な話ですね。

武田 役者冥利というか...やっぱり緑じゃないですかね。土佐藩260年の物語を僕らは4年間でやってる。たったひとりで「坂本!」って叫んでた30代だったけど、今度の「龍馬伝」の中にエコーされて......それからもうひとつ、福山に永遠に恩を売っていくつもりだけど、やっぱり坂本はミュージシャンが良いよね!

素敵な言葉をいただきました!

武田 これは俺が言ったんじゃなくて、近寄ってこない福山が言ったんだよ。咸臨丸に乗るシーンで、舳先にジョン万次郎(トータス松本)がいたじゃない?

あ!(トータスさんも「竜馬の妻とその夫と愛人」(02年)で坂本竜馬を演じている!)

武田 そのとき、福山が3人のツラ見て「そういや3人ともミュージシャンですな」って言って、俺が「ほら見ろ!」って言ったらあいつが慌てて離れていったんだよね。先輩の話が長くなりそうだって(笑)。それぞれミュージシャンで、幕末のある匂いを醸し出せたっていうのは、「幕末青春グラフティ」なかに流れていた流れのようなものを誰かが伝承してくださったのかなって思うんですよね。




戻る
inserted by FC2 system