未来の人々の中にいつか俺達が生きるように、竜馬は俺の体の中を流れる血の中に生きている。

鉄矢さんは本当に坂本竜馬が好きなんですね。

武田 この間、九州博多に帰って、こんどの映画がどのくらい面白いかというのを、昔の仲間に話してたわけ。俺、何か男友だちには受けがよくて、よく集まってくるのね。もうみんな三十路を過ぎちゃって、子供もいてさ、そいつら集めて、ずっと話してたわけ。ある友だちが驚いて「それは21歳のときに俺に話してくれたことと同じじゃないか」って。「えつ、そうか?」って言って、つまり、自分には全然わからないけど、そこがおめえの奇妙ですごいところだっていうわけ。21のときに話してたのと同じことを、36になって同じ面して、お前は話すっていうのね。うん、惚れた相手がよかったんだろうね。

想いが強すぎれば強すぎるほど、つらくなるときってありませんでした?

武田 うん、あるね。竜馬さん、どうして助けてくれないんですか、とか言いたくなるときがあるね。

いつも、竜馬に問いかけているんだ。

武田 うーん、ま、ひとり言の話し相手がほとんと坂本竜馬だからね。俺の場合は、どんなふうにいっていいかわからないけど、こんどの映画でも竜馬を演じたなんて思ってないよ。というのは、普通だったら「人生の目標は?」て訊かれたら「家1軒持ちたい」だとか「会社の社長になりたい」とか「外交官になりたい」とか「最低でも資産は1億円残したい」とか、そういうのがあるんだろうけど、俺は単純明解で「竜馬のようになりたい」と、のようなものになりたいと、それだけだったんです。「好きな俳優さんは誰ですか」とか「目指している俳優さんは誰ですか」とか、いろいろ訊かれるけども、そんなの全部ひっくるめて、竜馬のようになりたいと、それだけだからね。

竜馬に初めて出会った時はどんな印象でした?

武田 何か、太陽の色が変ったっていう感じよね。いや、その後は彼から教えられたことばっかりですよ。彼のいうことを聞いてると、不思議に物事がうまくいくんですよ。坂本竜馬の役やっててしんどいときあるでしょ、何でこんなにうまくいかないのかなあ泣きだしたくなるときあるでしょ。「苦しいか」って竜馬がいうのね。で「おめえぐらい苦しいことあったけど、そのとき俺は笑ってたんだぞ」っていうのね。「苦しいか、つらいかねだがよ、わしはおまんと同じ道を笑って通ったことがある」ってね。

撮影はそれほど大変だったんですか?

武田 うん、芝居がうまくいかない...これ、バラしちゃうけど、監督がOKくれないんだよね、俺が書いた本なのに、OKくれないの悩んでね、ほんとに眠れなかったな。つらくって。俳優やめようかなと思ったもん。竜馬の肖像画に向かって、よかったら俺に乗り移って芝居やってくれないか」って頼んだけど、うまくいかなかった(笑)。竜馬の声がこえてきてね、「呼んだのはおめえじゃねえかおめえがここへ来い」って言われたよう気がして地上に降りてきてくれって言いたかったのに、竜馬はこう言うわけ「地上で言ってるのはおめえじゃねえか。俺は天にいるのに、何でおめえのとこへ行かなきゃいけねえんだ。おめえがこっちへ来い。惚れたのはおめえじゃねえか、おめえが動け。ってる夢と現実のギャップローニンという非常に古めかしい言葉が、今でも日本で生きてるわけでしょ。もしよかったら、そういう人たちに、ローニンの原型であるこの人たちを見てくれないかと。いちばん最後に、脚本にそういう台詞があるんだ

そういう意味で、今回の映画は、革命的な映画になりますか?

武田 うーん、革命かどうかはわからないけどね、評価は、人がするもんだから。ただ、もういっぱいやりましたよ。

ここの撮影現場には、何かたいへんな雰囲気がありますね。

武田 みんな悩んでるからね。七転八倒してるからね。さっき、眠れねえって言ったけど、眠れねえのは俺だけじゃないんだよね。美術ここまで来い。俺の心境にまでなれ。おめえはどうも甘えてる」ってね。

鉄矢さんはいつも、竜馬の声が聞こえちゃうんですね。

武田 最近、京都の坂本竜馬の墓の前へ行く俺がはじめて行ったときと違って、何かあの人は、若者の守護神みたいなところがあるのか、墓の前に絵馬がズラッとぶらさがっている。俺がはじめて行ったときは全然なかったけど、今はすごいんだ。10代後半から20代前半の若者たちが、一生懸命願い事を書いているわけ「あなたのように生きたい」っ俺と同じようなことを言ってるわけよ。あなたの弟になりたいとか、あなたのように男らしく生きたいとか、あなたのように燃えて生きたいとか、いっぱい書いてあるわけ。それを見て、とてもおかしくてね、俺がかつ1度、あの墓の前でつぶやいた言葉が、今若者たちの間で同じようにつぶやかれてるのかと思って。でも、その絵を見て思ったんだけどね、竜馬ならきっと「俺の栄光を追い求めるならば、俺の苦しみもお前たちには通ってほしい」というね、一介のローニン者が、金もなければ財力もない人脈もない、そのローニン者が、古めかしい言葉でいえば、天下を動かすというね、その苦悩、その寂しさ、お前らはそれも感じるべきである、と彼が言ってるような気がするのね。

竜馬も苦労人だったんですね。

武田 彼はほんとに金で苦労してる。そりゃそうだよな西郷隆盛や高杉は税金を使えるんだもんね。あいつは税金なんか使えねえんだもん。何かやろうと思ったら、自分で働いて、金貯めてやんなきゃいけないんだもんね。それでも何か妙にヘラヘラ笑って生きてた節があるね。うん、竜馬は笑いながら陰謀を語る男だね。

ところで、この映画はどうして「坂本竜馬」というタイトルではなくて「RONIN」になったんですか。

武田 これはね、日本全国にいっぱいローニンがいるわけじゃない、就職ローニン、大学ローニン、役者ローニン、みんなやっぱり持ってる夢と現実のギャップに苦しんでる。で、ローニンという非常に古めかしい言葉が、今でも日本で生きてるわけでしょ。もしよかったら、そういう人たちに、ローニンの原型であるこの人たちを見てくれないかと。いちばん最後に、脚本にそういう台詞があるんだけども、2人のイギリス人が、日本の総評をやるわけよ、「なぜ長州は幕軍に勝ったのだ」っていうわけ。勝てるはずがないのに。で、このイギリス人が「どうもローニン者が手伝ったらしい。それで戦争に勝ったらしい」と。「RONINとは何だ」要するに会社を職業を持たないローニンの説明をするわけね。と、そのイギリス人がポツンと、もしかすると、この国にそんなローニンたちが、今後も生き続ければ、この国は滅ばないかもしれない。しかし、この国がサムライだけになったらこの国はで、彼は、「もしかするとこの国は、100年後も侵略されずに生きてるかもしれない」と。そういう、何かギャップに苦しむ若者たちのパワーみたいなものが、非常に大きなもの軌道修正していくんではないかと。

明治から100年後の今の日本でも、その台詞、インパクトありますね。

武田 うん、あるね。徒党を組まない人間の夢の大きさというか、楽しさというか、個人の発想で生きていくところがそう、五木寛之さんがエッセイの中に書いてたけど、日本の映画状況に触れて、まるでこれでは、ベリーの浦賀来港だっていうのね。つまり、洋ものの映画がこのちっちゃな国をずらーっと取り囲んでいて、国内の映画は、もう今まさに滅びんとしている。もう滅びかかっているようなものであると。五木さんが、冷やかし半分に「一体、勤皇の志士は映画界に出てこないのであろうか」と。スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、ああいう黒船映画にガバーと持っていかれてね、志士が群がり出てこなければおかしいといってましたね。宣伝でいうわけじゃないけど、この言葉をみんなの胸に訴えたいね。

そういう意味で、今回の映画は、革命的な映画になりますか?

武田 うーん、革命かどうかはわからないけどね、評価は、人がするもんだから。ただ、もういっぱいやりましたよ。

ここの撮影現場には、何かたいへんな雰囲気がありますね。

武田 みんな悩んでるからね。七転八倒してるからね。さっき、眠れねえって言ったけど、眠れねえのは俺だけじゃないんだよね。美術はれねえ、もうみんな眠れなかったもんねでもものすごい冷たい言い方にきこえるかも知れないけど、監督のために芝居やるわけじゃないからね。それだけはわかってほしいんだけど、それぞれ自分の掲げたブライドというのもとで芝居やってるのね。それでみんな我慢してるのね。誰もを上げなかったというのは、すごい高いところまでみんな旗を掲げたんだよね。それが財産になるんだよね。OK出さないんだもん、あいつ。

高跳びと同じですね、どこまでクリアできるか。

武田 うん、「用意スタート」って、ダーンとピストル撃つ人のためにやってるんじゃないんだよね。与えられたバーに向かって走ってというね、それが越せなくてくやしいのは、何か自分に対してくやしいんであってね。いっぱいだったからね。日本の俳優さんもいっぱいやらせると、ここまでやるってことだよね。

シナリオ書くのに池内蔵太の墓まいりをしたそうですね。

武田 そう。去年、ほかの撮影で九州の五島列島に行ったの。そこの福江という島で撮影やっていたのね、そこに池内蔵太柴俊夫の墓があったのよ。こんどのストーリーはかなでたらめにやってるみたいだけど、けっしてでたらめじゃないんだよね。でも、ものすごい大きなうそがついてあるのは、実は、池内蔵太はこの映画の設定時にはもう死んでんのよ、馬関戦争が始まるわず何週間か前に、池内蔵太は、長崎沖の嵐にまれて、上五島に死体が打ち上げられるわけね。船が沈んで死んじゃったのよ。ところが、坂本、よっぽど、池のことが好きだったみたいで、この下関海峡の馬戦争に参加する前に、わざわざ道順を逆行して池の墓を建てに行ってる。それが上五島に残ってるのよ。それで、とっても面白かったのはね、ちっちゃな寒村なの。上五島の。で、漁師さんのお墓がいっぱいあるんだけど、みんな実家のほう向いてるのよ。だから、向きがバラバラなの。そのなかで、不思議なことにひとつだけ海のほう向いているのがあったの、それが池の墓だった。坂本が墓石を置いたらしいんだけど、どっち向けようか迷ったと思うんだ、あの人も。土佐にはかわいらしいかあちゃんがいたらしいのよ、柴俊夫じゃないけど、美人で誉れ高いかあちゃんが。だから土佐のほう向けようと思ったらしいんだけど、エイヤッと向けたんだろうね、海の方向にね。その墓の向きを見たときに坂本はよっぽどこの男が好きだったんだろうなと思って、1個だけ、シナリオ書きながら、うそを書いてやろうと思って。竜馬は馬関戦争一緒にやりたかったみたい池とね。竜馬の手紙読むと、詫び状文が書いてあって、ものすごい気の強い男だったらしいのよ、池内蔵太ってね。もう戦争というとすぐ、トップバッターで出ていくんだって。で、仲間内の評価では、池はきっと、歴史に残る大暴れをする男だそういうとんでもない人殺しみたいな男を、坂本は無理矢理海援隊に入れてるのね。ところが、妙に竜馬にはなついて、よく尽くしているのよ。それともう1個、沢村惣之丞がからかったらしいんだけど、海援隊は池がいればまとまって、大笑いしたらしい。妙に親分肌のある、いい男だったんだろうね。でも、海のほうを向けたという、その竜馬の心遣いがかわいいよね。お墓まで行って、はじめてわかったんだけどね。それで素敵なうそを?せめて映画の中だけね、坂本の夢を「池は、とても勇猛果敢で、刀の嵐や弾の雨の中をくぐって、そして死んでいく男だと思っておりましたが、私が不注意なばっかりに水難事故で殺してしまった、土左衛門にさしてしまったというのは本当に悪いと思う」という池のべっぴんのかあちゃんにあてた、そういう手紙が残っているのよ。彼の姿をたぐり寄せてみたわけですよ。資料だけじゃなくてね。

鉄矢さんは竜馬といっしょに旅をしてるんですね。

武田 うん、あの人の歩いた所はみんな、なるべく歩いてみて、そこから見える風景の中でものを考えるようにしているんだ。もう、一心同体(笑)伴侶がもうひとりいるっていう感じですか。こないだね。六本木で女の人からかって、ちょいと飲み屋のねえちゃんに惚れたりなんかして、通いつめて、夜遅くなるじゃない。するとかかあがブーブー、ブーブーいうよね。そしたら俺、いうわけ、ほかの女にやきもち焼いてる場合じゃねえんだと。お前のほんとの敵は坂本竜馬なんだ。おめえはそのことがちっともわかっていない。あの人さえ知らなかったら、お前のためのいい日になってる。憎かったら坂本竜馬を憎めと、俺の中にいるからと。

そう言っちゃうんですか、武田さんも残酷ですねえ。

武田 ひどいかもね。俺の部屋の中にパーツ竜馬の写真が飾ってあるわけね、で、いつもそれに向かってひとり言いってるわけじゃない女以上の存在だね、惚れ抜いてるわけだから女房もその関係だけは「子供ねえ」とかいって笑ってるんだから。(1985年10月4日広島県福山市




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