18年間の夢が実現「僕は竜馬になった」 武田鉄矢さんと坂本竜馬の出会いは?武田 僕が18歳の時、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読んだんです。天の啓示というか、太陽の色が一瞬にして変わったような衝撃でしたね。それまで劣等感の塊のようだった僕にも、竜馬と同じ様な生き方ができるんじゃないかと思ったんです。そういう高揚がこの本から伝わってきて、それ以来、僕の中に竜馬が住みついてしまったんですね。壁にぶつかった時、いつも竜馬ならどうするだろうと問いかけるわけですね。すると、僕の中の竜馬に教えられるの。彼のいうことを聞いていると、不思議に物事がうまくいくんですよ。ひとり言の話し相手が竜馬だからね。僕の人生の目標は、「竜馬になりたい」って、それだけだったんです。だから、この映画でも竜馬を演じたとは思ってないんですよ。こんなに長い間、想いが少しも変わらない、それどころかどんどん強くなるんだから、つくづく竜馬という男は不思議な人物ですね。
映画で竜馬をやりたいと思ったのは?武田 具体的には4年前、僕が33歳の時に、テレビで念願の竜馬を演じる機会に恵まれまして。彼の役を演じると、全身が躍動するような感覚が湧いてくるんです。その時から、絶対に大画面で、映画で竜馬をやろうと思ったんです。幸い、テレビの竜馬で組んだ河合義隆監督が、僕の夢の実現に賛同してくれましてね。4年間一緒に練りに練ってきたわけです。脚本家片山蒼として今までに一番熱の入った作品です。8回も書き直しましたからね。僕は何かある度に、京都にある竜馬のお墓に報告に行くんですが、この映画を撮るにあたって、土佐の高知の坂本家の墓まいりに行ってきました。坂本家一族の方々に「竜馬さんの映画を撮ります」と報告したら、「ウチの弟が果して、映画になりますか?」と、竜馬の最愛のおとめ姉さんの声が聞こえてきたんです。「めいっぱいやる!!って決心が固まりました。
映画づくりで苦労された点は?武田 まず、竜馬のようなデカイ人間になりきっていう難しさとして遠い所を見ているところが一番チャーミングに見える男なんですよ。気持ちは竜馬になりきっているつもりなのに、芝居がうまくいかない思い入れが強すぎるせいでしょうか、肩に力が入りすぎてる。自分ではセーしたつもりだったんですが......そんな時は、いつも竜馬の肖像画に向かって「よかったら俺に乗り移って芝居やってくれないかって頼むんだけど、うまくいかなかっ反対に、「おめえが呼んだんだから、おめえがここへ来い。甘えるな!」って怒られてる(笑)。大変なのは僕だけじゃなくて、3ヶ月半ものオールロケでしょう。スタッフもキャストも皆、最初は眠れないし大変だった。池内蔵太役の柴俊夫さんなん8キロも痩せたといってました。他の連中も平均4キロ減ったといいますからね。でも誰も音を上げなかったですね。集団生活の中で生まれた連帯意識も手伝って、皆が幕末のロマンに酔いしれてしまったということかな。
「坂本竜馬物語」でなく、「RONIN」というタイトルにしたのは?武田 現代にも、日本全国にたくさんのローニンがいるわけでしょう。就職ローニン、大学ローニン、役者ローニンなど・・・・・・。皆、自分の持っている夢と現実のギャップに苦しんでいる人達ですよね。ローニンとい古めかしい言葉が今でも生きているってことです。そういう人たちにローニンの原型である馬たちを見てほしい。この映画の最後で二人のイギリス人の「もしかして、ニッポンにローニンが今後も生き続ければ、この国は滅ばないかも知れない。しかし、サムライだけになったらこの国は滅ぶぞ」という台詞があるんです。で、竜馬は「もしかすると、この国は年後も侵略されずに生きているかもしれない」と思うんですね。そういう何かギャップに苦しむ若者達のパワーがある大きなものを軌道修正していく原動力となってきたんではないかと。五木さんのエッセイの中で日本映画に触れ「まるで、これではぺリーの浦賀来港だ」つまり、洋画が日本映画を圧倒している今「一体、勤皇の志士は映画界に出てこないのであろうか」といっているんです。スピルバーグやルーカス、ああいう黒船映画に金持っていかれてね。志士が群がり出てこなければいけない。この映画ではこの辺の事も皆の胸に訴えたいと思っています。
観客に伝えたいこの映画の竜馬像といったものは?武田 一言でいえば、竜馬の単純なところですね。「黒船を買ってアメリカへ行く」という、とてつもない夢を追って、金儲けに命をかける。金が欲しいから人に頭を下げるが、彼の中にはかすかなプライドがある。俺は浪人だ。ひとつの夢を叶える為には、どんなに汚い手も使うけれど、誰にも笑わせない」という台詞に、竜馬の意地を託したんです。今は、条件が整わないと、なかなか皆は夢に向かって神輿を上げないでしょう。何も手に持っていない男が、夢を実現するが為の、空を翔ぶがごとく、地を這うがごとき生き方を観てもらいたい。「竜馬がゆく」じゃなくて「竜馬が這う」ですね(笑)。それが、僕なりの、この映画のテーマですね。
「それからの竜馬」というようなものは企画中ですか?武田 この映画で「竜馬」は少しも完結していませんし、彼に対する僕の熱が少しも冷めていかないんです。だからまたやりたいですね。彼が死ぬその瞬間までを。わず33歳でこの世を去った竜馬は、31歳頃から、一変してものすごい策謀家になり、政治運動に乗り出し、歴史上の英雄になるのだけれど、今の僕にはその変貌の意図がよくわからない。この映画の竜馬は、友達が死んだら子供みたいに泣き、うれしいことには赤ん坊みたいに笑うの。そんないい男がある日突然、暗い陰謀家として目が据わってくるわけ。単なる土佐の明るい男じゃなかったんです。その部分が、今の僕にはまだとてもできない。だから単純に、泣いたり笑ったり怒ったりする竜馬を、この映画に閉じ込めたつもりなんです。「それからの竜馬」を、僕自身、納得することができたなら、ぜひまたトライしたいと思います。僕の生涯の師・坂本竜馬のために。(東宝本社に於て)