'87年11月3日、早稲田の杜は異様な熱気に包まれていた。校内はJR線のラッシュ並み、混然となって漂うやきそばやお好み焼の香り、C調の客引き今日は年に一度の早稲田祭である。その15号館12教室で「超能力の逆襲」と題するイベントが開催される。内容は清田益章氏のスプーン曲げ、実験、そして清田、長谷川和彦両氏の公開対談。開場を前にして教室の周りを長蛇の列がとり囲んでいた。主催は企画集団「便利舎」である。
今日は気軽にスプーンを曲げていきますけど、ただスプーン曲げを見て喜んでもらうんじゃなくて、人間にはこういう力があるんだな、ということを心の隅にでもとめてもらえたらいいんじゃないかと思います。これが本日のイベント、清田氏(写真・左)最初のメッセージ。
清田益章VS長谷川和彦
超能力それは新しい精神主義これがスプーン曲げだ!
長谷川 僕自身も清田君がこうしてみんなの前でスプーンを曲げるのを、五、六年前にすぐそばで見させてもらって、それが僕の初体験だったんだけど、その時こいつは困った”という気がしたんですよ。やっばり学校の理科で教わったこと説明がつかないというのは困るわけだな。でも映画監督なんていういいかげんな商売をしてるもんだから、困ったけれども拒否反応は持たなかった。でも日本のアカデミズムなんかはそういうものを嫌う傾向が強くて、ずいぶん遅れてるみたいだね。
清田 そうですね。物理学者とかいろんな人も見に来たりするんですけど、信じるんですね。でも、ほとんどの人が僕が見たことは内密にしておいてくれ。なぜかっていうと、これを見て信じたということになると学界の風当たりが強くなる、ということなんです。
スプーン曲げで、近代文明で失わ長れた人間本来の力を呼び戻す
長谷川 アメリカとかソ連が多大な研究費を投入しているのは、軍事力にこの力が応用できないかということを考えてるようだけど。
清田 だからアメリカやソ連に較べると、日本の超能力の研究は大幅に遅れていると。でも、僕としてはそういった軍事力にこの超能力を使いたくないし、人畜無害な超能力者でいたいなって気もするんですけど、もう少しちゃんと研究をやっていけば、もっとおもしろいことがわかってくるんじゃないかなと思うんですね。
長谷川 うん、スプーンが曲がったからどうだっていうのもあると思うんだ。スプーンが曲がったからって誰も幸せになったりしないじゃないかという理屈があると思うんだけど、そういうふうにとられると単に禍々しいものを見た、というだけに終わってしまう。これは清田という特殊能力者のみに関与することじゃなくて、人間一般が本来持っていた力だと、僕は思ってるのね。そして人間が近代文明、物質文明の中で失った力を呼び戻すというか、人間っていうのはいろんなことができるおもしろい存在なんだということを認識するースプーンはその入り口みたいな気がする。
清田 僕もそれはずっと感じています。
長谷川 清田はずっとパイオニアというか尖兵としているわけだけど、そろそろみんなスプーン曲げにも飽きてきたから、近々に空中浮遊をやると。これは、まじめにな?
清田 うん。ただ、時間がないんですよ。一生懸命やってるんですけどね。空中浮遊っていうのはスプーン曲げと違って、パワーがいりますからね。
長谷川 今、冗談のように空中浮遊なんて言ってるけど、世界のあっちこっちに行者仙人とか呼ばれる人たちが実際に宙に浮いて、それがフィルムなどに記録されたりしていることも多少は知られてるのかね?
清田 わかんないですね。見たことないから。自分でやったことはありますけどね。
コントロールできない空中浮遊は、かなりヤバイんです
長谷川 その自分でやった時っていうのはどんな状態だった?
清田 最近は四か月くらい前にひょこっと、二〇センチくらい持ち上がったんですけどね。
長谷川 立ってて?寝てて?
清田 座っててて、この前、仙台に友達の病気を治しに行ったんですよ。その帰り、いいエネルギーをもらったのか、パワーがすごく余っちゃって、新幹線の中で寝入りしなにぐぐっと浮かびそうになったんですよ。夢じゃなくて。コントロールできないから一生懸命シートをつかんで。コントロールできないて浮かんじゃうっていうのはすごく恐いんですよ。コントロールできるときはいいんですけど、コントロールできない空中浮遊はかなりヤバイんです。
長谷川 ジョニー大倉もそういうバカなことしたのかな(場内笑)。いや、あいつもスプーン曲げたりするやつなんだよ。素直だから。
清田 ゴジ監督も曲げたんですよね。
長谷川 でもおれはジョニーより多少インテリだからなあ。インテリほどだめだよ。だからうちの子供は曲げたよ。
清田 じゃあ僕はインテリじゃないんですか?
長谷川 おまえがインテリのわけないじゃないかよ。まあ、おれにも曲がると思うよ。だけど空を飛ぶ夢はよく見る。それが決まって裸なんだなあ。
清田 僕も夢はよく見ます。だけど実際に浮かぶ時はすごく苦しいんですよ。
長谷川 夢じゃなくて現実の時?
清田 ええ。体がすごく緊張してるんですよね。浮いた時にきれいに着地しようとか思うと、そういう雑念によってドスン!と落ちてしまうんです。だからずっと緊張していなくちゃならない。まあ、これはお話として聞いてくださいね。できれば今すぐ、ここでやっちゃいたいんですけどね。
清田主演で��小さなスーパーマン"を撮ってみたい
長谷川 たとえばここで浮遊をやるとしたら、まわりにいる人たちのエネルギーも影響するのかな?酒田するんじゃないですか。スプーンの場合は何千本とやってますから人が何を思おうと平気なんですけどね。それより僕の中で普通の常識が浸透してきちゃうでしょう?たとえば空を飛ぶときにどれだけの重力がかかるのか、なんてことをちょっと思っちゃうでしょう。それを思わない時だったらもっと楽に飛べたと思うんですね。だから飛ぶときは教育によって入ってきた常識と闘うわけですよ。僕は飛べると思ってるけど、ある部分で“なぜ飛べるんだろう?"と思っちゃうわけですよ。超能力でいけないのはなぜ?"と思うことなんですよ。できりゃいいんだ”と思わないと。スプーンに関してもなぜ?って言ったって、はっきり言ってわからないわけですからね。だから理屈を考えると、現象自体が起こりにくくなってくる。子供のころはコントロールができなかったけど、派手でしたね。
長谷川 映画にも出てもらいたいと思うんだけど、難しいのはさ、清田のやることを映画のトリックでやるとバカみたいなことなんだよな。簡単なんだよ。瞬間移動なんかも面白くもなんともないもんな。
清田 SFXでもないですしね。
長谷川 そうそう。みんな大変なSFXの映画を見慣れているから。だから清田が自由に空を飛べるようになったら清田主演で小さなスーパーマン”を。ラブロマンスにしてあげるから(笑)。それで、どうやっでもこれは飛んでるんだな、というぐらいのことがないとさ。
清田 やりますよ。
長谷川 おそらくそんなに見事に飛ばないだろうから、みっともなく五〇センチくらいのところでじたばたと(笑)。すると、スペシャルエフェクト使ってこんなタコなことするわけないから、これはやっぱり本物だぜ”ということになる(場内笑)。
宗教が持つ、ややこしさみたいなところから自由でいたい
長谷川 そういえば、おれが新宿で酔っ払てケンカした時に、あばら骨が折れてたんだけど、それを清田君に治してもらって。あれは驚いたね。一五分くらい手を当てないでさすってもらったら、なんか骨が盛り上がってくるような気がしてね。清田とつきあってよかったのはそれくらいだな(笑)。日本語には手当て”という言葉があるけど、語源はそんなところにあるんだろうな。母親が痛がる赤ん坊に手を当てて治れ、治れ”というのも、そういう力が微細ながら働いているんだろうな。
清田 そうでしょうね。愛ですよ。超能力は愛ですね(笑)。
長谷川 手かざしなんかはどう?こういうことやるんだぜ(と、額に手をかざす)。
清田 僕もやられたんですよ。こうやって、渋谷かどっかで(場内笑)。それで、ひらがなでちょうのうりょくしゃ”って書いてある名刺を出したらあやまってきましたよ。念力返しをやろうかと思ったんですけどね(笑)。僕は、あれはいいことだと思うんですよ。ただ、その儀式、これだけでしか救われないと思ったらおしまいなんです。ひとつ宗教に入って、それて救われたらいいんだけど、それだけでしかだめだっていうと、それを取られてしまったら何もできなくなりますからね。信仰はひとつのきっかけであって、僕はそれがすべてだとは思わないんです。
長谷川 おれも五、六年前清田君のしゃべってくれた言葉が、宗教的にお説教臭かったら、今ごろこんなところにはいないと思う。だから清田君が宗教と重なる部分もあるとは思うけど、宗教が持つルールのややこしさみたいなところから自由でいたいということは感じるな。
清田 僕は根本的には同じだと思うんです。
あまり硬そうなスプーンじゃありませんけど。スタッフに頼んだんですよ。あんまり硬いスプーンだと時間がかかるから、一六〇円くらいのを選んできてくれって(笑)。でも、それほど柔らかいものでもないんです。
このあとしばし無言の清田氏の額からは玉のような汗が流れる。そして最後には直接スプーンには手を触れず、手の平であおぐようにすると見事にスプーンの頭がぼっきり折れて床に転がった。会場には驚きのざわめきがひろがる。
ぼくは一九六二年生まれ、外見はちょっと幼い感じがするんですが、超能力を持っているためには幼い純真な心が必要だということで(笑)。小柄で童顔、そして軽快な口調の清田氏と、強面で渋い声、怒ってるのかとぼけてるのかわからない長谷川監督の対談は打ち合わせなしのぶっつけ本番で始まった(長谷川監督が遅れたため?)。まず言葉によるイメージです。「曲がれ、曲がれ」ではなく、「曲がる、曲がる」と言ってください。そして頭の中で曲がってしまった結果を思い浮かべてください。それを絵として思い浮かべます。そして頭の中に丸い玉を思い浮かべて、それが自分のこころの肉体以外のエネルギーが集まってきたんだと自分に言い聞かせてください。言い聞かせたらその玉を頭の中心から下に降ろしてください。喉元まできたら一度ストップして、今度は手に持ったスプーンの方に流しこんでください。それを何回かやってると必ず曲がってくるんですね。会場から選ばれた男女ふたり。女性のスプーンは折れこそしないものの、正常なスプーンに重ね合わせると、はっきりと曲がっているのが確認できた。男性のスプーンには残念ながら変化なし。そのしそうな表情に会場思わず失笑。
ドラッグも許さないような情けない国だから、こうして酒に頼っちゃうんだよな。禁酒法にでもならないかな。ーー清田氏にさんざん肝臓の心配をされながら。まるで反省色なく、ビールのおかわりを要求し、ぐびぐび飲み続ける。長谷川監督。
修業の境地を認識するためのドラッグもある
清田 最近肝臓は大丈夫ですか?
長谷川 いや、悪いから後で頼むよ。
清田 僕の友達って病気になっても大丈夫だと思ってるんですよ。おまけにウォーク壊れ持ってくるし。
長谷川 自分にはうまく効かないのかね?
清田 痛みのある時はだめですね。痛みがある時って、痛みに集中しちゃうんです痛いなって思ってると痛みのイメージがどんどん・・・・・・(場内)。ますます痛くなってね。だから痛み止めを飲んでから治すんです。
長谷川 あー、なるほどな。
清田 単純なんですよ。薬を飲む時も念力入れて飲むんですよ。
長谷川 じゃあ、薬の話になったところでドラッグと超能力の関係についてしゃべってみようか。まあ、ドラッグと言ってもいろいろあるけど、中でも軽いものは間違いなく人間のある部分を解放するんだろうね。だから腹の痛みがあるように、心の痛みにも種々のドラッグは使うべきだと思うね。
清田 僕は基本的には、ドラッグに頼ることに関しては反対の立場なんですよ。自分の力だけて、より高い解放が得られるんです。依存してしまうと逆効果になってしまう。ただ、ある意味で普通の人間というのは緊張感がありすぎるから、ドラッグをやるとある程度、ハイになるということはあるんです。インドなんかでは最初の修行僧にマリファナを渡す。まず薬物的にその状態を味わわせておくわけですよ。その状態自分の中で味わっておいて、徐々にその状態に近づくことをやらせるわけです。で、そこまでたどりついたら、もうちょっと強いドラッグをやらせてみて、また自分でやってみるということなんですね。ドラッグに頼るということじゃなくて、あくまでもその状態を認識しておくという方向で。そういう宗教もあるんですけどね。
長谷川 うん、それは正しいと思うなあ。
清田 しかし、興味本位だけでそういうものをやることに対しては、僕は反対ですね。
長谷川 だけどあんなもの煙草の一〇〇倍も害がないよ。おれも外国でだいたいやってみたけどね、ひとつだけやってないのにペヨーテってのがあるんだ、あれはサポテンの花かなんかだよな?
清田 ペヨーテはね、この間僕が対談したその道を極めている人に聞くと、そんなに強いものじゃないって言うんですよ。インディオが儀式の時に使うんだけど、その時いい誘導者がいないとまったくダメだって言ってましたね。
長谷川 変な方へとんじゃうんだ
清田 ええ。うまく分けてあげないと、気が変になっちゃう方向があるんです。
人間てのは、けっこう自由でおもしろいもんだという気持ちに
長谷川 (会場に)この中でマリファナ吸ったことのある人、どれくらいいる?(会場シーン)本当?後進国だな、この国は。
清田 いけないですよ、そういうこと言っちゃ。健全な超能力者ですからね、僕は。やっぱり超能力者はマリファナとかに頼っちゃいけないですよ。やっぱり自分の心に知らなきゃ。
長谷川 それがよくないんだよ。おまえはマリファナを吸って、ヘロインもやる立派な超能力者になるべきだよ(場内笑)。そんなものに負けるなよ、おまえ。
清田 僕は負けてないですよ。
長谷川 だから、おまえがそうやって気真面目なことを言って、ああいうものはやっちゃいけないんだという立派な人になっちゃいけないんだよ。悪い人でいいんだよ。
清田 僕の社会的な役割という話であれば、よくわかるんですけれど(笑)。
長谷川 捕まらないようにやりゃいいんだ(場内)。だから外国でやりゃあ。
清田 そんなにまで無理してやる意味もないですけどね(笑)。
長谷川 だってみんな一八になったらイッキ、イッキってバカやってるんだぜ。それよりはずっと肝臓にいいしな。もっと自由というものを全身で感じるというか。に好みがあるから、やらなきゃいけないってこともないけど、やったこともないくせに、やることはいけないと思ってるというのはまずいだろう、やっぱり。
清田 姿勢としてはね。ただ、現実的に言えば、今の段階でドラッグと関わるのは、やっぱり安易危険なやり方でしょうね。ま、それよりも僕はみんなをもっとおもしろい世界に招待したいと
長谷川 こういう遊びのようなことをしながら、人間っていうのはけっこう自由でおもしろいものだという気になるほうがおもしろいよな。
清田 そうですね。みんなにもこういう力はあるんだということで。
おれが新宿で酔っ払ってケンカしてあばら骨折った時、清田が手で治してくれたんだよな。その時、痛みがなくなったのは酔いが回って麻痺したのか思ったけど、次の日も平気でテニスやったんだよ。
愛称のゴジはゴジラからとか。
スプーンの断面を電子顕微鏡で調べてみると、力で折ったものや薬品を使って折ったものとは、はっきり断面が違うはずです。
対談終了間際、特別サービス(?)でもう一度、スプーンを折る。ドラッグの話をしてハイになったという清田益章、そして心なしか足元ふらりの長谷川監督、万雷の拍手に送られて退場。