さて、私が撮影現場を訪ねた7月11日はjr大阪の高架下にあるクラブを借り切って撮影されていた。 ここは栃野が裏の顔として経営している店という設定。栃野の地下資金と朝鮮半島への人脈に目を付けた中平は企業舎弟になるよう 栃野を執拗に追い回す。まずは組長就任に決まった中平が酒を飲みに来て、栃野に何しに来たと怒りを買う場面から。 ソファに座っている中平役の佐藤浩市さんを、布袋さんが睨みつける。阪本監督は布袋さんに「ガサツなりにリズムをつけて話してもらえます?それから歩きながらも浩市の目をずっと見てほしい」 佐藤さんには「セリフとセリフの間はいらん、それから抑揚をもう少しつけてくれる?」 さらには「ちょっと笑いも入れたいな、志賀さん、浩市の『酒もってこい』のあとに、『少女もな』と言ってもらえます?」 と次々と足していく。布袋さんは「阪本さんは現場でどんどん変えてくるから、脚本のセリフを覚えるのはやめたよ」と笑っていたが、まさにその通り。 佐藤さんはテイクの度にしぐさ、セリフをどんどん修正していく。
 次に門谷が部屋に乱入してきて、中平に銃を向ける場面に映る。立ち回りをリハーサルするなり、阪本監督は 「うーん、豊川の腕が長すぎで、 どこに立っても至近距離になってしまうなあ」と思案顔に。「豊川から 浩市までを横位置で狙うとフレームに入りにくいね、全部を入れるとなると、かなり引きの絵になるよ」と 笠松さんの指摘で横からの絵はカメラ2で、メインのカメラは手持ちで豊川さんの動きを背中越しに追うことになる。 その間も、「浩市、どこに弾受ける?肺に受けるか、腎臓で受けるかで痛さも違うやろ?」とか、「全部命中するのもなんやから、何発入れる?」 とかなり物騒な打ち合わせが続く。どうやらこの一連のシーンは1カットの長回しで行くことになったようだ。 スタッフ、キャストに緊張が走る。


 そして本番・・・豊川さんの銃の弾着が上手く爆発せず、不審に思った豊川さんがカメラを止めてと手で合図をするため、銃口を上げた瞬間に遅れて爆発。 顔に少しやけどをしてしまった。豊川さんより、むしろ阪本監督の方が焦っている。新たな仕込みに時間がかかるので、先に軽傷を負った中平を 小沢仁さん演じる才気が抱えながら逃げる場面の撮影となる。奥のVIPルームから血だらけの男二人が現れ、 ダンスフロアで踊っていた若い客たちがパニックになるというモブシーンである。

その直前に佐藤さんから、「本番前の緊張感のある中でお話ししたい」と急 にコメントを伺えることになった。 「本当はテレビドラマの仕事が連続して入っていたので、出演する時間がほとんどなかったんですね。出るならほんのカメオでというと 、阪本はどうしても中平でという。中平ほどの役柄だとやはりもう一人の人格を自分の中で立ち上げなきゃいけない。 それは正直言って楽じゃない作業です。けれど、阪本がこの作品の冒頭で語る『日本ももう終わりや』と最初に自覚した世代としての共感もあり、 出演することにしたんです。それに阪本にとっての初メジャー作品だしね、僕にできることがあるならと。」
 阪本、浩市と呼び捨てできるところに二人の関係性が現れ出ている。


 ・・・颯爽と銃を構える布袋さんに対して、阪本監督は栃野は普通の人間で、銃を持つのも初めてだから、へっぴり腰で、震えながら銃を構えられないか と指示。布袋さんは少々、残念そうな表情を浮かべるが、笑いながらわかりましたと答える。


 そのやり取りを見つめながら、「ああいうところが阪本さんなんだよね」と豊川さん。 「やっぱり仁義なき戦いの文太さんは立ち回りにしろ、何から何までかっこいいでしょう。 男が惚れてスカッとする。けれど、阪本さんの描く新仁義の世界、門谷は何から何まで中途半端なんだね。 中途半端な状況への苛立ち、心の刺をどう表現するかを考えているんだけれど・・・」


 さて、栃野の銃弾を受けて倒れる中平のショットを取り終えて、OKの声がかかるとそこで初めて佐藤さんから「痛ったあ」との声が漏れた。 背広の下に仕込んだ弾着が、若干、中でも爆発したようだ。「やっちゃったよ」と顔を顰めつつも笑う佐藤さんに、豊川さんが「大丈夫?」と声をかける。 なんだか同志、という雰囲気である。




 ヤクザ映画だというのに、新仁義なき戦い。で銃弾が発せられる場面は数えるほどしかない。

「豊川は一匹狼的な役が多かったから、一度、組織の中に入れてみたかった」と 阪本順治監督が脚本から宛書をしていた。
 阪本監督が用意した門谷役は、日本最大の暴力団組織、佐橋組の��3に位置する粟野組幹部で、自ら門谷組も率いる。 粟野を組長につけたいがため、彼は舎弟たちを厳しい状況に追い立てる。 身勝手に見えかねない男に舎弟たちは何故、ついていくのか。 「色々と考えたんですが、やっぱり、舎弟たちはどこか門谷に同性愛的なニュアンスで 惚れているという事なんでしょう。」
 確かに舎弟役の村上淳さんは豊川さんの色気にすっかり参ったと語っていた。 聞けば、イン前、豊川さんは舎弟役の若い俳優たちを集めて何度か飲み会を開いたという。 そういうアプローチをする豊川を始めてみたと阪本監督。

門谷と布袋さん演じる栃野の関係も同様で、11歳の時にヤクザを殺した2人は30年後、方や佐橋組のナンバー4 の中平から付け狙われるコリアン実業家、方や中平の宿敵として再会。門谷は無防備なほど動揺する。 門谷と栃野は人生の役割がどこかで入れ替わったとの見方もできる。 「栃野のために人を殺そうとしたのに、逆に彼に助けられ、彼に人を殺させた。 それはやはり負い目ですね。その心の傷を今回は分析も考察もせず、現場の雰囲気と布袋さんとの関係でおのずと生まれる空気に身を任せた。」

・・・
 「僕の父親は韓国籍でしたから、栃野のアウトサイダーの感覚はよくわかる。 栃野と門谷は二人で一つの人生だったのかもしれない。映画の中のストーリーでは語られないけど、 魂がどんなに違う道を歩んでいても結局は一つであると。スピリチュアルなメッセージだと思います。」

布袋さん


戻る
inserted by FC2 system