ロックンローラーの“勘�≠�信じて作ったけど、今考えると怖い映画だよ
豊田商事会長刺殺事件と「コミック雑誌なんかいらない!」(滝田洋二郎)
インタビュー内田裕也
豊田商事会長刺殺事件をモデルにした衝撃のクライマックス、そしてビートたけしの気迫る演技によって、現実以上に時代を切り裂いてしまったかにも見える「コミック雑誌なんかいらない!」本作の脚本・主演を務めた内田裕也は、そのとき何を考えていたのか?裏話満載でお届けする特別インタビュー!
タケちゃんの演技の中でもベストだね
マスコミの面前で人が惨殺される。そんな衝撃的な事件をモチーフにした映画のラストですが、当初からこれでいこうと考えていたのですか?内田 あれをコンセプトに映画を作ったのよ。あの事件が縦の糸になって、いろんなエピソードが続くんだ。あのクライマックスも、かなり最初の段階からしてたな。あの事件は外国でも叩かれたんだよ。日本のジャーナリストは目の前で殺人が起こっても誰もなにもしない。あとは言論の自由を追求したかったんだよね。ああいった現場に直面したときにジャーナリズムの連中は助けに行くべきなのか、なにもしないで報道に徹するべきなのか。いまだにわからないけどさぁ。だけど、人間としてはやっぱ窓ガラスを壊して中に入んないとさ。豊田商事会長刺殺事件大阪府発生した殺人事件巨額の悪を起こした豊田商事会長・永野一男が、スコミが集まった自宅前で、突如現れた自男によってめった刺しにされた事件。それと(内田自身が演じた主人公のレポーター・木滑が)刺されて表に出てくるところでは、死んでるのか生きているのかという境界をはっきりさせたくなかったんだよね。
世代的に会長刺殺の映像をニュースで見ているし、衝撃を受けたのは間違いないのですが、あの事件に関しては、この映画のビートたけしさんの怪演”が瞬時に思い浮かんでしまうんです(笑)。現実を超えてるというか、内田 ああ、そう(笑)。タケちゃんマンも、あれは自分がやってきた演技のなかじゃベスト3に入れてると思うな。めっちゃうまかったんだよ、タケちゃんマン。品川のマンションを借りてよ、いくら叩いてもいいように美術部が苦心して表側にドアを作って、2枚重ねにしてんだよ。それで最初、タケちゃん共犯役にピンク映画の男優さんを連れてきたの。でも、あの時のビートたけしにピンクの男優って全然つり合わないと思ったんだよ。で、大阪でバーやってる在日コリアンでジュン・クン・リーっていう、名前が5つくらいある奴を使ったんだよ。まぁ、やんちゃ。何回もパクられてるんだけど、そういうリアリティのある奴じゃなきゃ絶対ダメだって俺は言ったんだ。あそこは、素人とタケちゃんマンの活きが大事なんだよ。
テレビのワイドショーを題材にして、しかも登場するネタや事件が現実とリンクしていそれをほとんど時間差なく映画にするというのは、いま考えても斬新な発想ですよね。内田 いや、別に俺はそこまで策略家じゃないんだよ。でも、ロックンローラーとしての、勘みたいなもんがあった。ロス疑惑の三浦和義だって、出演を頼みに行ったしな。でもまぁ、なんといっても山口組と一和会だね。あそこ正直、俺もちょっと怖かったの。殺されはしないだろうけど、ひょっとしたら刺されるんじゃねぇかとは思った。本部前に防弾ガラスの盾を立てた組員がいてさ、もう最前線なんだから。俺が東亜テレビという架空のレポーターの役だからさ、アイツら「おい、東亜テレビなんかあったか?」とか話してんだよ(笑)。で、もし追いかけられた時はフィルムをラグビーみたいにパスして逃げようって、走るルートとか全部決めてな。だから、あそこを撮れた時に、この映画はイケるなと感じたな。
「水のないプール」はクロロホルム強姦魔、「十階のモスキート」は制服警官の郵便局事件と、本作以外でも裕也さんは、実際の事件をモデルにしていますよね。
トリュフォーに誘われそうになった
内田 朝日も読むし読売も読むけど、「週刊実話』や『週刊大衆」とかよ、東スポなんかにも目を通すのよ。やっぱ、そういう中に真実が隠されているんだよな。小泉純一郎も言っていたよ。「一流誌ばっかり読んでてもしょうがないんだ」と。永田町は裏の裏が多いから、ああいうのから色々と掴むんだろうな。
「コミック雑誌」は松田聖子の元恋人だった郷ひろみを出したり、芸能ネタも放り込んでいるから、さらに面白い。内田 ひろみはあの頃ニューヨークに住んでいて、なにかと「ニューヨーク、ニューヨーク」って言っててな。いいじゃない。ナンバー1のホストでなあ。「待たせたね」なんつって、笑っちゃいけないけどほんと元ホストじゃないかと思ったよ。それくらいうまかった。別れた嫁(二谷友里恵)を連れて観にいったらしいよ。松田聖子と神田正輝の結婚式も、隠し撮りじゃないと意味がないんだよね。だけど、「裕也、こんなとこでなにやってんだよ」って声をかけられるんだ。石原プロからは「撮らせてやるから入ってこいよ」とか言われたけどな。
カンヌ国際映画祭の監督週間に招待されるなど、世界各国で上映されたわけですが、もとになった事件を知らない向こうの人々はどう評価したのでしょう?内田 とりあえず、カンヌでもどこでもスタンディングオベーションが凄かったな。ニューヨーク近代美術館、リンカーンセンター、ロサンジェルス、ロンドン......あちこちでやったけど、カンヌではI can't speak fuckin'Japanese"シャウトするあたりからみんな、「ブラボー!」って騒ぎ出すからビックリしたよ。あの台詞は、日本赤軍だった岡本公三が起こしたテルアビブ空港乱射事件(1972年)がヒント。捕まった時に岡本が"I can't speak English"って言ったんだよ。絶対にこれしかないって思ってね。あの事件はヨーロッパじゃあ、誰でも知ってるからね。それか無言でいくかのどっちか。でも、カンヌなんてさ、日本人観に来ないんだよ。あれには頭にきたね。それで「コミック雑誌」を観てフランソワ・トリュフォーが、俺にすごい興味を持ったらしいんだ。黒澤明監督のスクリプターやってた野上照代さんが「あなたさ、トリュフォーに連絡を取ってみなよ。彼が一緒に仕事したいって」って言うんだよ。有楽町のアラスカってレストランでさ。「また、なに言ってるのよ」って結局コンタクト取らなかったけどね。でもあの時やっときゃなぁ~(笑)。
映画の勢いというわけではないですけど、公開後にたけしさんがフライデー襲撃事件を起こしたりと、いま考えると予見的な部分も多い作品なんですよね。内田 べつに、俺は霊能者じゃないからさ(笑)。でも、ほんとなんだよな。現実に同じようなことが次々と追いかけてきてさ、俺もヤバいなぁって思ったもんな。そう考えると、怖い映画だよ。
「コミック雑誌~」では滝田洋二郎さん、「十階のモスキート」では崔洋一さんと、裕也さんは監督を選ぶ目も優れていますが決め手ってなんでしょう?
表も裏も、映画は事件であふれている
内田 崔洋一なんかは「あ、こいつ面白い奴だな」ってマークしてたわけ。松田優作の映画で助監督とかやってて、しょっちゅう見かけてたからね。滝田洋二郎なんか、ピンクで「痴漢電車」シリーズとか撮ってたんだから。俺、新宿ピンク映画を観て、面白いのをチェックしてたんだよ。で、先入観とか持たずに、まず顔面を見んだよ。だいたい、俺とやりたがる監督なんていねぇからな。こっちも巨匠とかとやるの嫌でさ。そういや、黒澤明監督にパーティーで会って、「君、吸うかね?」ってマイルドセブン一本もらったことがあったな。監督はねえ、喧嘩強くなくちゃダメだよ。黒澤監督もそうだろ?プロレスラーが監督やればいいってもんじゃないけど、荒くれの頭おかしい奴らを引っ張っていくには、オカマか強いかどっちかしかないんだよ。
巨匠といえば、大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」もに出演されてますね。内田 これはもうみんな知っちゃってる話だけどさぁ、あれは最初、ディヴィッド・ボウイの相手役は沢田研二だったんだ。沢田にオファーしようと渡辺プロに電話しても、ガチャって切られちゃうらしいんだよ。で、俺だったら沢田もいうことを聞くだろうから繋いでくれって頼まれてさ。ニューオータニのVIPルームに、沢田と俺と大島渚だけ。向こう(大島)はボウイを口説いてるもんだから、コレもん(自信満々)でよ。そしたら沢田が、全国ツアーをやると。スタッフも500人くらい抱えてるし、中止にはできない。僕のスケジュールにボウイさんを合わせてくれないかと言うんだ。大島監督は、「そ、そ、そ、そんなことはできない!」って怒りに震えてたよ、プルプルプルって。でも沢田は動じずにパッと立って「それでは監督、この話はなかったことでお願いします」って。俺さぁ、テーブルの下であいつの足蹴飛ばしたもんね。
まさか断るとは(笑)。内田 あの頃のデイヴィッド・ボウイと共演だってのにさ。で、桑名正博と坂本龍一が次の候補になったのよ。でも、桑名はあんな頭(カーリー・ヘア)になってる頃だからダメでな。で、坂本になったわけ。ちょっと余談になっちゃったけど、それも“事件”だからな。日本映画の裏面史としては、こんなすごい話ないよ。