黒澤明監督『影武者』で鮮烈の新人飛び出す



隆大介



去年6月のクランク・イン以来、何かと話題の多かった黒澤明監督の『影武者』。ここにひとりの新人がいる。隆大介――まったく無名の彼が、この映画の中で『狂気の武将”織田信長を演じた。そして今、久しぶりの大型新人と騒がれ始めている。狂気を演じられるやさしき青年・隆大介とは何者か?そしてその素顔は!!!

狂気とやさしさの間を差し揺れる眼



『影武者』の中で、「さすが信玄、死してなお3年の間、よくぞこの信長をたばかった」の名ゼリフを吐くのが陸である。
  鋭い視線、精悍さの中に武将の気品を合わせ持った雰囲気は、他を圧するものがある。
  が、23才の隆にとって、これが初の大役である。
  これまでは、仲代達矢・宮崎恭子夫妻が主宰する『無名塾』の、文字通り無名の役者の卵でしかなかった。
  「3年前に週刊誌の募集広告を見て、塾に入りました。でも、1年後に、同期生6人のうち残ったのはボクだけでした」
  キラリ光るものがあったのだろうが、それでも対外的に認められることはなかった。
  テレビなどのオーディションを、受けても受けても落とされる毎日。去年2月、『影武者』のオーディションも「ダメでもともと」の軽い気持ちで応募した。「顔見せというか、この世界の人に顔を覚えてもらうことと、せめて黒澤監督の顔を拝めればというくらいの気持ちでした」
  面接試験の初日、いきなり黒澤監督に何か喋れといわれた。やっと言った言葉が、あがって「黒澤監督の大ファンです」
  もう駄目だ、と思ったのは4回目。終るとスタッフに「お疲れさん」といわれた。「落第常連』の彼は、これを「お引き取り下さい」と解した。
  しかし彼にも、陽の当たる時がきた。「君に信長をやってもらうよ」と黒澤監督じきじきの指名であった。
  「嬉しいなんてことより、自分に大役がこなせるか、不安と恐さが先でした。今考えると真っ青だった」
  翌日から乗馬の特訓開始。
  ヒマな時は「セリフを覚え、毎日、衣装をつけて撮影所を歩け」が黒澤監督の与えた日課だった。
  着物を着慣れさせようという黒沢監督の完全主義のあらわれである。
  ロケ先でも監督の完全ぶりは発揮された。隆が宿泊したホテルの1室をバー『信長』と命名、監督は役者やスタッフをひき連れて夜毎、酒宴を開いた。
  全員が車座になり、上席には隆が坐った。隆を私生活でも『殿様』にすえる配慮である。「信長はそんな喋り方をしないぞ。歩き方も違う」――そうした黒澤監督の細かな指示に対し「ぼくはいわれたことを、少しでも消化しようとやっただけ」と隆はいう。そして、黒澤監督と仲代、ふたりの師をこう評する。
  「黒澤監督は不自然な演技を嫌い『時代劇だと意識すると、クサイ演技になる」と力説しました。仲代さんもリアル追求は同じで、嘘の芝居は駄目だ」が持論です。結局、同じですね」



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  隆は、天職と考えて俳優の道を選んだのではなかった。
  東京・大井の生まれ、都立大森高校を卒業。その時、漠然とコックになろうと考えた。
  「高校から大学へ進むのもいいが、つまらないと思う人間もいるだろう。ぼくがコックになろうとしたのは、強いて挙げれば料理作るのが嫌いじゃなかったからなんです」
  しかし、コックにならず高卒後2年間、よく映画を観て過ごした。
  好きな役者はアル・バシーノ、ダスティン・ホフマン、ロバート・デ・ニーロ。
  「ピッカピカの二枚目じゃないが、現代を象徴する存在感があるのが気にいってます」
  そして、隆自身に大きなインパクトを与えた作品は、神代辰已監督、萩原健一、桃井かおり主演『青春の蹉跌』である。
  「5年くらい前に20回ほど観ました。ショーケンの扮した主人公に、人間の弱さが出ていて好きだった・・・・・・」
  その頃から、フッと役者になるのでは・・・・・・という予感があったという。
  事実、役者になり『無名塾』からは神崎愛につぐ大型俳優。の呼び声が高い隆だが、本人は「まだ、役者に向いてないのでは、と自問自答してるんです。話が苦手だし、照れちゃうし」
  たしかに雄弁家ではない。むしろ朴訥に喋る。その言葉が光るタイプだ。
  3人姉弟の末っ子。兄と姉は独立、母とふたり暮らし。
  母親は彼が役者になることに反対だった。
  昨年の年収は百万円に達していない。1日7千円の土木作業員をやりながら、役者の道を進んできた。
  「『影武者』の出演料として50万円もらいました。オフクロにプレゼントしたのと、酒代に消えました。親孝行らしいことを初めてしましたよ」
  と顔がなごむ。
  母親は彼が中学時代に離婚した。その母の哀しみを知るだけに「結婚は当分しないけど、結婚したら、相手の女性を絶対に幸せにしたい」と言い切る。
  『影武者』の公開は4月26日、早くも好演を伝え聞く映画、テレビから出演依頼が殺到している。
  「公開されるまで、次の仕事は決めたくないんです。いい本、いい監督で、いい仕事に恵まれれば本望ですが・・・・・
  身長183センチ、体重75キロ、4月26日を境に『無名』から『有名』にはばたく。



黒澤明が一番思い入れを込めたのが信長役であったという。隆もその「戦国の風雲児、のようにはばたく 戻る inserted by FC2 system