THEGOOD,THEBAD
ANDTHE役者
隆大介
作品は監督のもの”小中監督を尊敬しています
183�p。大柄である。中学時代は陸上中距離走(5000m)、高校ではバスケットボールをやった。体育会系で自分を主張してきた。それがどうして俳優に?
「映画が大好きで、それこそ多いときには年間300本という年もありました(笑)。18歳から3年間、キネマ旬報を毎号欠かさず講読してました。あの頃よく分析採録や脚本が載ってましたでしょ、それをつぶさに読んで映画を勉強しましたね」
今回の取材が本誌から受ける初めてのインタビューだったそうだ。これは意外だった。
「ですから昨日の夜、緊張と嬉しさで一睡もできませんでした。本当です、キネマ旬報さんからインタビューされること、ずっ~と待ってましたから(笑)」
とたんにこちら側が緊張した。
無名塾の師、仲代達矢譲りの「脚本読解」には定評があるが、その基礎はひょっとしたら前出のような分析採録を読み込んでいた時期に自然に身に付いたものなのかもしれない。
映画好きを物語るエピソードに事欠かない。東京・東銀座の松竹セントラルに日参し、ロマン・ポランスキー監督『チャイナタウン』を都合五○回観たという。ロードショー館に通いつめたのだから元手がかかっている。神代辰巳監督『青春の蹉跌』も五〇数回観た。主演の萩原健一に強く憧れた。そこから俳優を志すようになった。
「今村昌平監督の主宰する日本映画学校の第一期生なんです。萩原さんのような俳優になりたくて飛び込んだわけです」
そのあとシナリオの学校にも通う。この時期、今村昌平製作、『青春の蹉跌』の脚本を書いた長谷川和彦の監督デビュ一作『青春の殺人者』の前売チケットを精力的に売りさばいたという経験もある。
青春の真っただ中、いつも映画といっしょだった。
「作品は監督のもの」ときっぱり言う。その言葉には映画を見込んできた者ならではの力強さがみなぎっている。
「撮影に入る前まではいろいろと相談しこちらからもアイデアを言いますが、撮影に入ればすべて監督任せです。ですからハートと言いますか、映画心のある監督さんと仕事をしたくなるんです」
手塚治虫原作の傑作シリーズ「ブラック・ジャック』(全3巻)に主演した。タイトルロールのブラック・ジャック役。監督には『四月怪談』という傑作をものにしている小中和哉があたっている。小中監督は今年33歳になる若手。
「年下の監督さんと組むのは初めて」だったそうだが、撮影中に小中監督のエネルギッシュな映画心に触れ、その出会いを喜んだという。
「いまでは小中監督を尊敬しています」
と熱っぽく話す。
「第2巻のラストシーンの撮影のときでした。ライティングが進められているとき監督に呼ばれ、照明がどうあたるのかモニターを見ながら説明されたんです。そのとき監督が、こういうライティングですからこの場面はプラック・ジャックのいつものスーツ姿のほうがいいと思います、と言ってくれたんです。そのとき私は前のオペ場面とのつながりを考え、手術服だったんですけど。
今まで監督にそういう風に説明を受け言われたことがありませんでしたから、ものすごく嬉しかったですねぇ。主演というのはあぁこういうものなんだ、とそのとき肌で感じ掴むことができました。『ブラック・ジャック』のシリーズが続く限り、私は小中監督と仕事を続けていきたいです」
ビデオに対する偏見はもう終わった
『ブラック・ジャック」はビデオで撮影され、デジタル技術でフィルム効果仕上げてある。しかし見た印象の画面の質感は、フィルムで撮影された、普段観慣れた映画とさして変わらない。当初はフィルムで撮影されたVシネマだとばかり思っていたほどだ。ビデオオンリー作品であることはインタビューの最中に知った。
「Vシネマも含めてビデオに対する偏見はもう終わったと思います。『ブラック・ジャック』に出演していっそう強くそのことを言えるようになりました。より合理的にドラマを丹念に語るという意味で、今やビデオの存在は大きいと思う」
ブラック・ジャック誕生をフラッシュバック的に描写するモノクロームのエピソードが特に優れている。その質感はドキュメンタリー映画を想わせ、小中監督始めスタッフ・キャストが全力でドラマに挑んでいった、その息吹きが伝わってくる。このエピソードを観た瞬間、(ビデオ・オンリーであることを知らなかったから余計に)これは昨年の『KAMIKAZETAXI』と同様、劇場公開されてもいいと思った。
映画をよく本篇〉と言う。テレビやVシネマは決してそう呼ばれることはない。しかし、これほどテレビが充実しVシネマや『ブラック・ジャック」のようなビデオ・オンリー作品から次々多彩な才能が育っている現在、もはや映画は<本篇〉とふんぞりかえっていられる時代ではなくなった。
「映画の現場の人間は少しは危機感を持たないと、近いうちに大変なことになりますよ」
経験から親身に映画の行方を心配しての発言である。
『ブラック・ジャック」には「渾身の力を込めてノレた」という。
「カメラの志賀葉一さんや照明の岩崎豊さん、美術の登山和朗さんらスタッフの力量の深さに感動しましたね。キビキビ動き、小中監督の意図する構図をカッチと創り上げる。もう20年も映画の現場入っていますから、その現場がいいか悪いかぐらいすぐに分かります。『ブラック・ジャック』の現場はこれまで就いた中でも一、二の良さ。皆さん映画心をしっかり持っていて勉強になりましたね」
ブラック・ジャックと香川照之扮する若き医師・辰巳久秀が、クライマックスで脳幹部からの弾丸摘出手術を執刀する場面がある。実際の手術を想わせるリアルな創りになっている。
「小中監督を始めスタッフの皆さんはアメリカのアクション映画、それも爆破処理班が仕掛けられたダイナマイトの配線を静かに一本一本取り外していくとい緊迫した場面をヒントにしながら撮っています。そういうことが映画心だと思います」
映画心を持っているということは、「俳優の芝居を分かってくれる」ということでもあるそうだ。
隆〈ブラック・ジャック〉は適役と言える。怖い。背筋がゾクッとする。その表情にこれまでのすべての苦悩、忌まわしい過去を刻んでいる。オールバックのヘアスタイルが、いっそう手塚治虫が創造したブラック・ジャックに近づけている。斜めに走っている傷痕がいらないほど、隆<ブラック・ジャック〉はオリジナルに限りなく近い。
「あの傷痕はブラック・ジャックの記号ですから、どうしても外すことはできないと思いました。ブラック・ジャックのコスチュームもマントにするかトレンチコートにするかで悩みました。作品のようなスタイルになったのは撮影3日前。すぐに馴染みました。ブラック・ジャックを演じることが運命だったのかもしれませんね」
『ブラック・ジャック』の隆大介と呼ばれたい
原作は現在なお単行本が飛ぶように売れている人気コミック。それを演じるにあたってかなりの重圧はあっただろう。「重圧どころか一度は降りようとまで思いつめましたよ。原作を読み返してみて、20年も前に既に安楽死や病に対する人間の偏見をしっかりしたドラマの中で描いていることを知り、やはり挑戦してみるべきだと考えるようになったんです」
全篇にブラック・ジャックという人間の心に潜む、暗く深い影が覆っている。それは俳優・隆大介のブラック・ジャック自身に懸命になり切ろうとした性格描写によって、いっそう深く画面全体に漂ったものだと推測できる。重厚に、まるでシェークスピア劇の一場面を観ているかのように、ブラック・ジャック=隆大介の芝居が異彩を放っている。
「無名塾で鍛えてきた仲代メソッドが間違いではなかったと改めて思いましたね。そういう意味では『ブラック・ジャック』はもう一度、自分というものを見つめ直すきっかけを与えてくれた作品だと思います」
黒澤明作品『影武者」でデビュー。続けて『乱』にも出演。これまでどちらかと言えば〈クロサワ映画の隆大介〉と見られがちだった。
「この作品を機に、これからは『ブラック・ジャック」の隆大介と呼ばれてみたいですね」
昨年、実際に起こった朝鮮輸送船の爆沈事件を題材にした『エイジアン・ブルー/浮島丸サコン」(堀川弘通監督)、強制労働を強いられた韓国の人々の苦悩を描いた『三たびの海峡』(神山征二郎監督)に出演している。被害者、加害者と対照的なキャラクターを演じた。
「何かふっ切れた感じがしました。作品に恵まれ出したという感じも持てるようになりましたね」
何かふっ切れたとは、もう迷うことなく仲代メソッドで鍛えてきた芝居感覚を押し貫こうとする決心に他ならないだろう。理詰めの計算された芝居のできる人。とかく感覚とその場の勝手な解釈による感情だけでしか芝居できないタレントが多い中、彼の存在は正統な演技道として評価したい。
「『ブラック・ジャック」シリーズには俳優20年の集大成を持たせたいという目標もあります。隆大介にしかできないブラック・ジャックを創るつもりです。それが小中監督や多くの優れたスタッフと出会えたことに対する自分自身への答えになると思います」
既に第二巻まで撮り終えている。第二巻からピノコも登場する。この号が出ている頃は、たぶん第三巻の撮影のためタイへ渡っていることだろう。タイにはブラック・ジャックの永遠にして宿命的なライバルあの安楽死を扱うドクターキリコがいる......。これからのシリーズも大いに楽しみである。(文・田沼雄一)1957年2月14日生まれ。1977年、仲代達矢主宰の無名塾に入塾し、80年の黒澤明監督作品『影武者』で織田信長役に抜擢されて注目を浴び、新人賞を受賞する。以後、映画、TV、舞台と幅広く活躍中。映画作品だけでも『下山事件』(81)『遠野物語』(82)、『乱』(85)『226』(89)『エイジアン・ブルー』(95)『三たびの海峡』(95)など、実に多彩である。 戻る