「いま、たまたま家を設計しているんだが、その地下をブチぬいてホームシアターを作ろうかと計画してるんだ。だから今日の取材は、かなりマジなんだよな」
 おお。なんとタイムリーな発言!
 今回はそんな長谷川監督に、新宿にあるプラスビジョンのショールームまで来ていただくことにした。同社のホームシアター用プロジェクタ『Piano』を中心として構築されたここの「ファミリーシアター」にて、本格的サラウンドシステムをたっぷりと体験してもらおうというわけだ。
 まずお聞きしたかったのは、映画の作り手側として、ホームシアター(とりわけ映像デバイス)に何を求めたいのかということ。「それはやっぱり、映像のディテールから色調までキッチリ再現しきるクオリティーだろうね。俺は、これまでずっと映画は映画館で観ろ�≠ニ言い続けてきた人間なわけだよ。ま、おそらく根っこの部分は死ぬまでそうだと思うが(笑)、その大きな理由は、テレビやビデオでは映画の世界をほとんど再現できない気がしてたからなんだ」
 現在、ご自宅では36インチのテレビモニタとビデオデッキを使用している。もちろんビデオで映画を観ることもあるそうだが、そんなときには、いまだにちょっとした罪悪感を感じてしまう。「罪悪感というとオーバーだがね。でも無意識に作り手の視線で観てしまう部分があるから、映像のアラが目につくのは事実だよ。たとえばテレビのモニターってのは暗部がひどくツブレて見えるから、せっかくスタッフが苦労したであろう夜のシーンでも、微妙な色合いが真っ黒にツブレこんで見えたりするんだよな。これがプロジェクターになると、反対に黒に深みがなくなって、へんに白っちゃけて見えたり...どっちにしてもツライよね」
 いきおい、ビデオで観る映画というのは「観ないよりは観たほうがマシかな」という感じになってしまう。それもあって「ホームシアター」という言葉には、実はこれまでずっと懐疑的だったそうだ。
 そういえば監督映画の世界には「アメリカン・ナイト」という手法もありましたよね。カメラにフィルタをつけて夜のシーンを昼撮影すること。いわば架空の夜景だけど、撮り方によっては本当の夜よりも夜らしく見えたりするという......「俺らがガキの頃に見ていた西部劇なんか、みんなそうだよね。でも、逆にいえば昼のシーンにも強いライトをあてたりしてるわけで、ある意味映画ってのは全シーンがアメリカン・ナイトだとも言えるんだよな。それはある種のウソではあるんだが、作り手としては現実よりリアルなウソを見せようと苦心してるわけだよね。監督もカメラマンも照明係も、みんなそうだと思う」
 なるほど。でもそれを言えば、長谷川監督の『太陽を盗んだ男」がまさにスタッフのそんな思い入れにあふれた映画だったはず。
 先日リリースされた待望のDVD版には、特典コンテンツとして、当時のスタッフたちへの膨大なインタビューを編集した「メイキング・ド「キュメント」が収録されている。そのなかでたしか鈴木達夫カメラマンは、撮影当時キャラクターごとに特定のカラーフィルターを使い分けていたといういうエピソードを語っていたはずだ。そういう繊細な色彩設計も、これまでのビデオパッケージなどでは、完全には伝わっていなかったのかもしれない。
 ・・・・・・・と、ずいぶん前置きが長くなってしまいました。さっそくDVD版『太陽を~」を再生して、プロジェクターを使ったホームシアターの実力をチェックしていただいた。「もうちょっと滲むかと思ったが、そうでもないね・・・・・・予想以上にクオリティーはあるという印象だな」
 オープニングから数分後、主人公の物理教師(沢田研二)が自分のアパートに帰ってくるシーンで、まずはこんな感想が。よかった。ディテールの再現性については、まずまず合格点をもらえたようだ。
 ところでDVD版『太陽を盗んだ男」では、撮影監督の指導のもとオリジナルネガ原版からダイレクト・テレシネを行っている。そのため、これまでに比べて格段に正確にフィルムの発色を再現できたという。「大西(敏樹)というプロデューサーが、それだけは譲らないと言ってね。カメラマンがダビングに立ち会ってるし、俺もいちおうチェックした。これまでのパッケージにくらべると、はるかにオリジナルのプリントに近い色になってると思うよ」
 プラスビジョン・ショールームの森嶋武彦マネージャーによると、今回試した『Piano』の開発段階でもっとも苦労したのも、やはり色調再現だったそうだ。このクラスのプロジェクターとしては唯一、液晶ではなくDLPという投影方式を採用。コントラスト(明暗)だけではなく色や黒の階調もしっかり表現し、よりフィルムライクな映像になるよう設計されているという。で、さっそく、プロジェクター側で色調調整をしてみることに。「色温度ね、懐かしいな、助監督時代に覚えたな(笑)。次はコントラスト?を上げてみようか。いったん目一杯じゃ上げてみて・・・・・・これで最大?今度は徐々に下げてみてもらえますか。シャープネスは、もう少し固めでもいいかもしれないな・・・・・・でも、テレビでシャープネスを強めると走査線が強調されてギラギラした感じになってしまうけど、これはそうでもないですね。うん、このサイズで観たフィルム以外のものでは、今日のがいちばんフィルムの質感に近いのは間違いないな」
 実はプロジェクターについては、昔あったプロジェクター方式の劇場でリドリー・スコット監督の「ブラックレイン」を観たときに画質の低さに失望した経験があったそうで、それ以来あまり期待しないようになっていたとか。「そういえばあれも夜のシーンが多い映画だったしな。このDVDの画像は、その当時とはぜんぜん違う。この画質があれば、罪悪感を持たずに家で映画を観られるというかね」
 と、DVDホームシアターとの組み合わせにおいては、かなり満足していただけたようだ。「まともな映画館のスクリーンで観るのを100点とすれば、クオリティ的に80点以上はあげていいんじゃないかな。いちばん適切な距離と空間を見つけると、そのポイントももう少し上がるかもしれない」
 長谷川監督が、DVDやホームシアターなどの可能性について本気で考え出したのは、実はわりと最近のことだという。
 この数か月で監督作品の『太陽を盗んだ男』『青春の殺人者』と脚本担当の「悪魔のようなあいつ」が相次いでDVD化されたこと、とりわけ自分自身もそのパッケージ作業の一部に関わったことは、認識を深めるうえで大きなきっかけになっているそうだ。インパクトが強かったのは、やっぱり映像の質だという。「ビデオテープはしょせん代替物だという限界を感じさせたけど、DVDならかなりのところまで表現できることがわかって。ここまで画質がいいなら、自分の家でシアターを作ろうという発想になるのは、すごく理解できる。これまでは��ビデオじゃなくて映画館で観ろよ"なんて散々言ってきたくせに、最近では��ただDVDで観るのはいいぜ!"みたいな感じになってるね」
 DVD版『太陽を盗んだ男』については、発売元(アミューズソフト販売)がクオリティーにこだわったことも大きかったそうだ。ダイレクトテレシネでフィルムの発色にこだわったことは前述したが、ネガについた細かい傷もかなりの時間をかけて修復しているそうだ。「今回は俺としても、ニュー・プリントで封切ったとき以来のきれいな映像で観ることができたわけでさ。これは作り手にしてみれば、やっぱり大きな喜びだよ。嫁に行ってとっくにオバサンになっちてた愛娘が、いきなり若返って帰ってきたようなもんだからな」
 さて監督、今日体験していただいた本格的DVDホームシアター、ご感想はいかがでした?「テレビよりも先に映画館で育って、映画は映画らしくあってほしいと思ってる俺みたいな人間からすると、大きなスクリーンできちんと映画が観れるといのは、これはもう圧倒的にいいことだと思うんだよ。それに、家に帰って100インチのスクリーンで映画を観られると思ったら、ちょっとワクワクできるじゃない。DVD買ってきて、この野郎、今日は映画で勝負だ!"みたいなさ(笑)、映画と対決する感じ?」
 これからは、本格的なサランド・システムやプロジェクターを使ってDVDホームシアターを作る人も増えてくるはず。そうすれば、これまでは劇場でしか味わえなかった種類の作品でも、自分の家で、かなり作り手のイメージに近いかたちで体験できるようになるかもしれない。
 現在、次回作「連合赤軍」が動き出しつつあるという長谷川監督。DVD時代の監督第1作がどうなるのすごく期待してるのですが。「過去の作品もDVDで出ちゃったし、もういい加減遊んでるわけにもいかんしね。がんばります」

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