2つあるラスト・シーン
現在ニューヨークとロスアンジェルス及びカナダのトロント、3都市の3館で先行公開中の「地獄の黙示録」は、5月18日にカンヌ映画祭参加作品としてワールド・プレミアされたヴァージョン(未完成といわれていた)と違うものではないのか、という話題がある。「遠すぎた橋」が全編で使ったのと同じ量だといわれる火薬によって<王国〉の神殿が爆破されるシーンがないせいである。
カーツ大佐を殺した後、ウィラード大尉のボートが動き始めたところへ、ヴェトコンに続きアメリカ及び南ヴェトナム政府軍の空襲が行われて神殿が吹っ飛ぶという設定のスペクタクル・シーンは、確かに撮影されている。
コッポラ監督にインタビューした<ニューヨーク・タイムズ紙〉のトニー・チウ記者の記事によると、メイン・タイトルもクレジット・タイトルもない現在上映中の70ミリ版と違い(そのかわりに、観客たちは全員、見た後で製作ニュースやクレジット・タイトルが印刷されている小冊子を入手している)、拡大公開に使用される35ミリ版には4分30秒に及ぶ爆破シーンが加えられるそうである。コッポラ監督自身の回答として伝えられており、確かなようだ。私が見た70ミリ版の静かなエンディングの後、ひと呼吸あってから、そのスペクタクル・シーンが続き、それにクレジットが重なって来ることになるらしい。70ミリ版が2時間25分なので、35ミリ版は2時間30分30秒というランニング・タイムになるわけである。監督自身は70ミリ版のエンディングが好きらしいが、世界各国の配給会社からの強い要望も考慮に入れて折衷案を出したのだろうと思われる。 コッポラ語録
同じくトニー・チウ記者への回答の中から彼らしい強気の発言を拾っていこう。「理解してくれない連中もいた。あれは愉快だったよ。(勿論、これは皮肉のつもりだろう)。長い、長い時間をかけてしまったが、私としてはアメリカにとって大変に重大な意味を持つ時代を描いて、よい仕事をしたつもりだ。モニュメントだよ、これはね」。理解しなかった連中とは、カンヌ映画祭にもいた、好意のない批評をした人たちのことである。「金のことは心配していない。いずれにして結論は出るだろうからーー。たとえ破産しても、私は翌日から100万ドルを取れる監督業に戻れる。ただし、どういう結果が生じても、子供たちを失うようなことにだけはなりたくないーーということは、ゴルディー・ホーン主演の映画をとることになるのかな?エキサイティングだねーー本当だよ、とにかく、私は考え込んでいるだけの人間ではないつもりさ。」大変な自信だが、いかにもイタリアらしい家庭を愛する強い父親像が出ていて感動的でさえある。観客にとっては重すぎる映画になるかもしれないが、「ワァ、いやだワ、この映画質問が多すぎて、私アタマが痛くなっちゃう。ネェ、「アニマル・ハウス』をもう一度見に行きましょうヨ」なんていい出す女の子と一緒にではなく見に行ってほしい。そして「地獄の黙示録」に成功するチャンスを与えて貰うことを願うよ。 R・デュバル、M・シーン
異常に高いボルテージの、しかし最高の名演技だと絶讃を浴びているデュバルはコッポラ監督とどこでウマが合うのか不思議なほど静かな男である。質問者はニューヨーク・ポスト紙〉のトム・トポル記者。「3年も昔に終わった仕事ですよ。素晴らしい作品です。コッポラは最高の監督だと思います。特に、私にとって彼との仕事が楽しいのは、役者を放っておいてくれるからかもしれないな。エゴのかたまりみたいな男なのに妙なことですよ、これは。しかし、この作品に限っていえば、徹底的なコッポラの観念に染められた映画だということになるかな。少し前に、サンフランシスコのコッポラの家で一度だけラッシュを見ているけれども、私の役の上で面白かったエピソードの1つがカットされています。サーフィンをするためにヴィレッジを焼きはらうくせに、一方ではヴェトコンの兵士を1人救い、その直後にまサーフィンの話に熱中していくという矛盾を見せるエピソードでしてね。残念だけれど映画にはよくあることです。」
彼はコッポラと同じ意味で「ネットワーク」仕事をしたシドニー・ルメット監督が好きだという。芝居を自由にさせて貰えるかららしいが、それは勿論、演技者としての信用があるせいだろう。とにかく彼のキルゴア中佐は絶品の見ものである。私の予想だと、来年の演技賞は他に大きく水をあけた独走で彼が総ざらいすることになっているのだ。**
そしてこの映画のヒーローの1人であるし、狂言回しでもあるし、観客ともいえるマーティン・シーンは、謙虚にその充実した仕事をふり返る。「酷い撮影だった。それは十分に満足感をたらしてはくれたのだがね。コッポラがボクに要求したものは、それは凄かった。彼のいろいろなアイデア、イメージに応えるのに毎日が精いっぱいだったよ。それは、特に常人が抱えるものではなかったからね。あのジャングルの中ではみんなどこかおかしくなったものだったが、ボクが一番酷い目にあったのじゃなかったかな。撮影が終わって元に戻るのに半年以上はかかったよ。」戻る