評価はまちまちだが、映画に関心のある人なら見逃せない作品の一つであろう。当時の若者たちが使うロシア語めいたスラングは、ほとんど映画にも原作どおり無解説で使われているが,一応解説を挿入しておく。場面は暴力退治のルドビコ心理療法にアレックスがかかり、映画を見させられる所,すべて主人公のナレーションで進行する。例によって原文,直訳,台詞の三段式で記載しよう。
1 確かにシニー(シネマ)をビディする(見る)事になった。
1 確かに映画だった。
2 連れて行かれた場所は,兄弟よ、今までにビディしたシニーとはひどく違っていた。
2 だが,およそ映画館らしくなかった。
3 私は拘束衣にくるめ込まれーー
3 拘束衣で縛られーー
4 私のガリバー(頭)はヘッドレストに縛りつけられ,そこからは電線みたいなものが向うにのびていた。
4 ガリバーには色々な線をつないだ
5 それから、彼らは私の目にまぶた押えを、がちっとはめ込んだ。これで目はつむれない。
5 そして目にまぶた押えをした
6 いくら努力してもだ。
6 目をつむれない
7 少しバカらしく思えたが、彼らがやろうとしている事をやらせる事にした。
7 バカらしいけど勝手にやらしといた
8 もし二週間で私が再び自由な若い男性のマルチック(ボーイ)になれるのならーー
8 二週間で自由の身になれるなら
9 その間は、かなりの事でもガマンする気だった, おおわが兄弟よ。
9 どんな事でもガマンしようと思った
10 最初の映画は,しばらくの間は, すごく出来のいい, ハリウッド製のようなプロ式のシニーだった。
10 最初の映画はハリウッド級のプロ作品だった
11 サウンドは実にハラショー(すてき)だった。
11 音もハラショーだ
12 ひどくリアルな悲鳴やらめき声も、スルーシイできた(聞えた)。
12 うめき声も迫真的
13 それとまた,トルチョックしている(なぐっている)マルチックたちの重い息づかいや、あえぎもーー
13 なぐる方の重い息づかいもーー
14 同時に聞えた。
14 本物そっくりだった
15 それから,驚いた事にーー
15 しかもその上
16 我々の古なじみであるーー
16 おなじみの色もだ
17 赤い赤いワイン色の血が,こんこんとーー
17 真赤なワインの色
18 まるで大きな工場で品質管理されたワインのように一面に同じ色でーー
18 それがあたり一面にーー
19 流れ始めて来た。
19 流れ出した
20 実にビューティフルだった。
20 見事だった
21 全くふしぎだ。 現実の世界の色彩も
21 ふしぎだ 本物の色よりーー
22 それをスクリーンでビディする時だ け本当にリアルに見える。
22 映画の色の方が本物らしく見える
23 さて、こうしてずっと見ている間
23 だが見てる間にーー
24 私はどうもあまり気分がよろしくないのに強く気づき始めていた。
24 何となくいやな気分になって来た
25 私はこれを、やたらに栄養のある食事やビタミン類が原因だと思い込んだ。
25 食事が変ったせいかと思った
26 だが私はこの事を忘れるようにして、次の映画に注意を集中する事にした。
26 だが気をとり直して次の映画を注目した
27 それはいきなり別の場面で、一人の若いデボチカ(娘)が一
27 野郎どもが若いデボチカにーー
28 例の「入れたり出したり」をされている所を写し出した。
28 「入れたり出したり」をやる
29 最初は一人のマルチックによって。
29 最初の男が済むとーー
30 そしてもう一人。
30 次の男
31 また一人。
31 またお次
32 六人目か七人目のマルチックが,ニヤニヤとスメック(うすら笑い)しながらーー
32 六人目か七人目の男が襲う場面でーー
33 コトを始めるに及んで、私の気分はついにーー
33 いよいよ気分がおかしくなった
34 本格的な吐き気になった。
34 吐き気がした
35 だが私はグラジー(目)をつむる事ができなかった。
35 だが目はつむれない
36 そして目の玉をあちらこちらに動かしてみた所でーー
36 いくら目玉を横へそらしてもーー
37 この映画の攻撃から身を避ける事はできなかったのだ。
37 やっぱり映画は目にはいって来た
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私感
これを見れば現行のフルメタル・ジャケットと時計じかけのオレンジの字幕は誰がやっても同じだということが分かる。
だって直訳しただけだから。なので戸田奈津子はキューブリックの命令を拒否した、という点で降ろされたわけであって
能力がどうこうということではなかった。つまり、原田眞人がフルメタルジャケットの字幕でネットなんかで変に名を上げたりしてるんだが、別にこいつじゃなくても同じニュアンスの字幕になっていたろうし、別の人間がやった方がよりグレードの高い字幕に仕上がっていた
ことは間違いないのだ。それまでキューブリック映画を担当していた高瀬が亡くなっていなければ、清水俊二あたりがやっていれば、と。キューブリックとやりあい信頼されたなどと原田は語っているが、従順だから信頼されたというだけで、やりあったりの能力不足は「あっちはジョン・ウェイン こっちが僕」という意味不明な字幕を通して露呈してしまったし、現行版である時計じかけのオレンジのラストの「完全に治ったね」より、高瀬が劇場公開時につけた「これですべて逆戻り」の方がしっくりくるし、センスがいい。
原田眞人の人間性の破綻がフルメタル・ジャケットの字幕に通底していたなどと書いたが、勘違いだったよーだ。
それは吹き替え版聴いても分かる。彼は作品やセリフのニュアンスを理解してすらいなかった。SWから何からそうだ。
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