永野寿彦


 どの映画を観るか決める時、何を基準にして選ぶか。お気に入りのスターが出演しているから?好きなジャンルのものだから?監督のことを信用しているから?
 ま、これにはそれぞれ種々雑多な基準があると思う。今、この文章を読んでいる人たちも「クリスチャン・スレーターが好きなの」「ただのひまつぶしだよ」「雑誌で絶対面白いと書いてあったから」「ギャング映画が見たいのじゃ」「デートの道具です」といった色々な理由から、この『モブスターズ/青春の群像』を選んでいるはず。
 そんな中で、おそらく一番多い理由は「お気に入りスター」と「ギャング映画」ということになるだろう。
 さて、その理由のうちのひとつである「お気に入りスター」の場合を考えてみる。当然、『ヤングガン2』『今夜はトーク・ハード』などで日本でも人気のクリスチャン・スレーターがこの映画の看板スターということになる。もちろん、一緒に出演している『キャント・バイ・ミー・ラブ』などの青春映画でおなじみのパトリック・デンプシーが目的の人もいる。それから、これが映画デビュー作になるリチャード・グリーコ、初めての大役を得たコスタスマンディラーといったニュー・フェイスを、映画雑誌などで素早くチェックして早くもファン宣言している人もいるだろう。
 この若手4人を「お気に入りスター」として、この映画を選ぶ基準にした人のほとんどが、サブタイトル「青春の群像」からイメージする青春映画の部分に期待していたはずだ。実際、彼ら4人が様々な困難を乗り越え、次第に力を付けながらトップの座にのし上がっていく無鉄砲で若々しい姿は、それを期待している人を満足させるのに充分なほど青春映画の魅力に溢れている。
 となると、もうひとつの理由である「ギャング映画」の方を期待してきた人はガッカリしてしまいそうだが、そんなことはない。なかなかどうして、立派に本格的ギャング映画の面白さを備えているのだ。
 まず、このドラマが実話に基づいたものであること、これは、マフィアの準幹部だった男がマフィアの内情を暴露した実話を描いた『バラキ』に代表される実録ギャングもののパターンである。
 『モブスターズ/青春の群像』に登場するのは、マフィアの中に合議制を持ち込んで組織を統一した大物チャールズ・ルチアーノを始め、ラスベガスを作った男として知られるベンジャミン・シーゲル、それを影で支えていた参謀マイヤー・ランスキー、ルチアーノが国外追放になった後組織の指導権を握ることになるフランク・コステロの4人。その若々しい時代の姿をスレーターたちが鮮烈に演じているのである。
 このルチアーノとその組織については実録ものの代表作である『コーザノストラ』でも克明に描かれていた。
 『コーザノストラ』でルチアーノに扮していたのは、イタリアの演技派ジャン・マリア・ボロンテ。これが実に本物のルチアーノにそっくり。腹の底にズシンとくるような重厚な演技が圧倒的だった(今回、ルチアーノを演じているスレーターを見ていて思ったのは、年を取ったらボロンテと同じような、つまり本物のルチアーノそっくりの男になりそうだということそれくらいスレーターの演技は素晴らしい)。それに、イタリア映画が得意とする徹底的なリアリズムが貫かれたバイオレンス映像が加えられ、迫真のギャング映画に仕上がっていた。
 当然、『モブスターズ/青春の群像』にも、そんな実録ものならではの、残虐と思えるほどリアルなバイオレンス・シーンが用意されている。青春ドラマを期待していた人にはちょっと酷かも知れないが、実録ギャング映画には絶対に欠かせないものである。
 ここで、面白いのはそんな実録ものならではの凄絶なバイオレンスシーンがひとつの感情表現につながっていること。
 例えば、デンプシー扮する親友マイヤーの忠告を無視して、ルチアーノがひとりでドンファレンザーノとの話し合いに出掛ける場面。ファレンザーノから仲間の裏切りを強制され、それを拒否したルチアーノは傷つき捕らえられ、死ぬことよりも苦しい私刑(リンチ)を受ける。ここには、友人の忠告を無視した自分に対する罵倒と、友人を絶対裏切るまいとする強固な意思が、傷口からこぼれ落ちんばかりに伝わってくる。
 例えば、愛する女性モーツを殺した冷酷な殺し屋コールにルチアーノが復讐する場面。狡猾なコールの意表を突いて、ルチアーノと彼の持つマシンガンが同時に咆哮を上げ、何十発もの銃弾が撃ち込まれる。ルチアーノの失った者への悲しみが、マシンガンの銃口からはじけているような感じさえしてくる。
 そんな具合に、思わず目を覆いたくなるほどの凄惨な場面にも、登場人物たちの様々な思いが込められている。リアルだけれどもドラマチック。つまり、実録ものと並ぶギャング映画の流れである、人間ドラマものの部分も兼ね備えているのである。
 その代表格として真っ先に思い浮かぶのは、もちろん『ゴッドファーザー』
 マフィア一家の中にあってただひとり堅気の生活をしていたマイケルが父親ドン・コルレオーネが撃たれた時に復讐を決意する。組織の足を引っ張る実の兄を殺すことになる。こういったひとつひとつの場面で登場人物たちの胸の奥に隠されている悩み、痛み、苦しみがジンジンと伝わってくるドラマチックな部分までもが、『モブスターズ/青春の群像』には織り込まれているのである。
 そしてもうひとつ。忘れちゃいけないのが『ディック・トレーシー』などに代表される娯楽アクション活劇としてのギャング映画の面白さだ。
 子供の頃に「ダダダダダ・・・・・・」とマシンガンの発射音を口マネしながら遊んだギャングごっこの、あの単純明快な痛快さまでも『モブスターズ/青春の群像』は持っているのである。
 だから、主人公たちが抗争を繰り返しながら次第に力を大きくしていくところを、ジャズ調の音楽に乗せて鮮やかにモンタージュする、という映画ファンおなじみの場面もちゃんと用意されていたりするのだ。
 つまり、この『モブスターズ/青春の群像』は、ありとあらゆるギャング映画の良い部分を集めたような作品。今まで作られてきた実録もの、人間ドラマもの、娯楽アクションものといったギャング映画の伝統を引き継いだ作品なのである。
 マイケル・カーベルニコフ監督は、これが映画デビュー作。だから、お世辞にもうまくまとまっているとは言えない。どちらかと言うと、ギクシャクしている感じの方が強いくらいである。が、しかしこれは欠点ではない。ギャング映画を徹底的に勉強し、ギャング映画の様々な手法を引用することによって生まれたこの荒さこそが、若手キャストによる青春劇にうまくマッチし、「お気に入りスター」の青春ドラマを期待してきた人を結果的に満足させているのである。
 CM畑出身だそうだが、注目すべき才能を持つ監督である。次回作では「監督への信頼」という形で観客に選ばれることになるだろう。

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