ガダルカナル戦線における米軍兵士の姿を通し、人間の在り方を問う戦争ドラマ「シン・レッド・ライン」。テレンス・マリックの20年ぶりの監督作には全米中の俳優から「役の大小は問わないか出演させてほしい」というラブコールが殺到。にもかかわらずマリック監督は、物語の鍵となる役を無名俳優ジム・カヴィーゼルに与えた。「オーディションから役を手にいれるまでの3ヶ月間は人生最大の苦痛(笑)。テリー(マリック監督)の伝説は聞いていたけど、ナーバスになりたくなかったから作品は見ないようにしていたんだ。初めて2本とも見た瞬間、偉大な監督と仕事をするんだと実感したよ」
撮影に使われたフィルムは、なんと150万フィートにも及んだ。通常の映画の50倍も回した結果、どの俳優が主要パートを占めるのかは謎に包まれていたという。完成作品は、脚本とは大きく違っていたから驚いたよ。脚本にはないモノローグが挿入されたり、ビル・プルマンやミッキー・ロークの出演シーンが完全にカットされていたり。有名俳優が出演していると観客の集中力が途切れるという監督の意向なんだけど、僕は出演時間が長くて本当に恵まれていたと思うよ」
ジムが演じるのは、激しい戦闘中にある境地に達してしまう繊細な二等兵ウィット。原作者ジェームズ・ジョーンズが戦友をモデルにしたこの役は、同じくジョーンズ原作の「地上より永遠に」でモンゴメリー・クリフトが演じた心優しい元ボクサーのプルーにも通じるヒロイックなキャラクターだ。「戦線離脱を繰り返すウィットを臆病者と思う人もいる。でも、彼は決して逃げたわけではないんだ。冒頭の彼が母親の死に思いをはせる場面は重要だよ。彼は、死を恐れるあまり愛する母親の死に顔に触れることができなかった。その罪悪感が空けた心の穴を彼は、必死で埋めようとする。離脱先で感じた安らぎがその穴を埋めたおかげで再び戦場に戻り、勇敢な行動をとることができたんだ」
太平洋戦線で最も激しかったガダルカナル戦線で「今日を生き延びられるか」という正気と狂気の間、まさに<シン・レッド・ライン>を体験した退役軍人らアドバイザーとして撮影に参加。ある日、そのひとりがジムのリアルな演技に堪えきれずに涙した。「僕の姿が昔の彼らとダブったんだ。僕は戦闘で人を殺した経験はないけれど、この映画に関わったことで戦争の悲惨さというものを身近に感じることができた。この映画は戦争で亡くなった方へのオマージュでもあるし、撮影中は戦争の犠牲者に恥じないよう頑張ろうと意識していたよ。そういう意味でも、この映画は僕の人生を変えた大切な作品」
とはいえ、マリック監督の独特の演出法には戸惑いもあったようだ。「例えば『あそこに変テコなカヌーがあると思って演技して』なんて不思議な演出をする上、アクセントひとつにもすごくこだわる。でも、あのショーン(ペン)ですら、黙ってテイクを繰り返していた」と言いつつ、マリック監督に演出されるペンの物真似を始めたジム。カーミットに似た声のマッリク監督の指示で演技をやり直すペンの態度は明らかにイラ立っている。しかし、当のジムはとても楽しそう。自作のプロモーションという大役で緊張気味のようだが、素顔はひょうきんな奴のようだ。
この後は、アン・リー監督の南北戦争ドラマ“RIDEWITHTHEDEVIL"を終え、オリヴァー・ストーン監督"ANYGIVENSUNDAY"と話題作が続く。マリック監督が世に送り出したチャード・ギアやマーティン・シーンのように成長するかどうかは未知数だけど、まだ始まったばかりのジムの挑戦を見守りたい気持ちになってきた。戻る