影の爪(松竹)


 貞永方久お得意のサスペンスものだが、今回は彼特有の燃えたぎる情念のヌード的描写が見られないのが残念。その代り、家庭の幸福の夢破れるのではないかという不安におののいた香山美子が、疑いに疑い、発狂してしまうプロセスが強烈に描かれる。狂った彼女が松橋登のチンピラを殺し、血みどろの屍体から部屋のすべてを真白に塗りつぶしてしまう異様なムードはさすがに貞永的感覚の面白さ。片や岩下志麻は冷静そのもの、いささかも感情をオモテに出すことなく、稀代の悪女ぶりを演じて見せる。これはまたなかなか難しい演技に耐えたものと思う。女の怖ろしさ。

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