マスコミは横文字の単語をブームの波にのせてしまうと、必ず調子に乗って、ドラマや本、映画などの題名あるいはテーマに取り入れ、単語本来の意味を思いっきり拡大解釈する。 その影響もあるのか、最近では、男や女が、異性に熱烈な片思いをしてアタックすることさえストーキングなどと軽薄に呼ぶようになった。 違うんだよ 本物のストーカーってのはなア、もう、そんなん甘優しいもんじゃなくて、一種の宗教というか狂信、いや精神病理学の立派な対象になるすさまじいサンプルなんだよ。 民族は右翼の一水会や統一戦線義勇軍の活動家として事件を起こす以前は、ヤンキー、ゾクもしていたから、獄中で愛読していたヤンキー専門誌 ティーンズロードに出所後半年たった95年の半ばごろから人の紹介で連載をはじめ、それがいつの間にか、ヤンキーやゾクの人生相談のコーナーになり、キレ系の手紙をずいぶんもらった。 ここのところ少しさぼってはいるが、原則としてファンレターには必ず返事を書くことにしている。ファンの反応は実にありがたい。文筆の励みになる。 もちろん、自分にもひょっとして、松田聖子や美空ひばりを襲ったり、森進一の子供を産んだとわめいて大騒ぎになったようなサイコなファン がいつかは出るかもしれないぞ――という恐れはあったが、半ば他人事のように、甘く考えていた。ただし、あの女につきまとわれるまではだ。  俺は、本当に、神経がおかしくなったんだ・・・。

その女の名前を仮にS田としておく。埼玉県に住み、年齢は今年30。バツイチの子持ちにして何か手に職を持っているのか、自宅で仕事をしているようだ。 彼女から届いた郵便物、ファクスは3000を超え、今では読者関連の手紙類の大部分を占めている。 あれは96年春のことだ。それ以前から、S田は俺の自宅住所、電話番号を突き止めようと、関係のある出版社、政治団体に

 「ライターなんですけど、見沢さんのアシスタントとして勤務したいんで」

と偽って電話をかけていたようだ。 各出版社、一水会など。しかし、やはりその道のプロはプロ、簡単には教えない。 ところが、たまたま一水会の事務所に、よく事情を知らない一般会員が止まっていた夜、運悪くS田から電話があり、これがなんと住所、電話番号を教えてしまったのだ。 ある日、速達が来た。

 ちーちゃまへ。いるとこわかったよーん、そのうち襲いに行くからね。わーい、ワーイだ。

作家なんて、大体夜型だ。俺の場合、特に午前中の約束がなければ、午後2、3時に起きて、夜の3、4時ごろまで仕事をする。夜中の12時ごろが夕方の感覚だ。 だから速達や午前中の宅急便は、まさに真夜中にたたき起こされるという感覚なのである。 その速達が3日連続で続き、以降、執拗な電話攻撃、ファクス攻撃にさらされたため、とにかくそういった要件は事務所あてにしてくれと強く言い聞かせた。 実は事務所への攻撃は、それ以前から始まっている。当時俺は、見沢知廉事務所を統一戦線義勇軍の事務所に置いていた。 天皇ごっこが出たとき、できる限り読者の反応を実感したかったため、本の中でその事務所の連絡先を公開していた。 事務所の所在地を知ったS田は、手紙は言うに及ばず、変態写真集、アウシュビッツ収容所死体写真集といったキレ系の雑誌、さらには執拗な電話攻撃、ファクス攻撃を続けていたのだ。

義勇軍の書記長で事務をやってるHは温和な人間なのだが、ときには30分おきにS田から本当にどうでもいい内容の電話を受け続け、事務所に寝泊まりしていたものだから、ある日さすがにキレた。 「見沢さん、もう俺、あいつにだけは我慢できません。電話を取ってあの声が聞こえるとぞっとするんです。夜の仕事なのに、朝から電話がかかってくるから、寝られないんです。そのむね、手紙で書きますけどいいですか?」

ああ、是非やってくれやってくれ。ありゃ、ひどすぎる――

しかしその何日かあと、Hの描いた手紙に赤ペン出直しを入れ

 「誤字、この字は汚い、文脈が変、おしまいには60点、もっとがんばるように」

と書き加えたものが、私のもとに送られてきた。

そのあとも事務所への電話、手紙が続き、Hはとうとう爆発した。 「見沢さん、もう俺は切れました。政治のためだったら務所に入るのはいとわないです。バカな刑事事件は絶対に起こしたくなかったが、あの野郎は別だ。天誅を下します」 いや、分かったわかった。興奮するなよ――俺はなんとかHをなだめた。 しょうがない、以後手紙、電話、ファクスはこっちにくれる用手紙書いとくから、我慢してくれ・・・

もちろん、進んでS田に自宅の住所、電話番号を教えたわけではない。事務所への攻撃の最中に自宅の情報を捕捉され、いったん軌道を事務所へ修正させたが、義勇軍の事務所にこれ以上迷惑はかけられず あえなくまた自宅を標的として差し出さざるを得なくなっただけである。しかし、甘かった。まず電話だ。

リーン

 ・・・あのう、先生の家に行っちゃだめですか

ダメ。仕事です

 ・・・えーと、さっきの件ですけどぉ、仕事が忙しいなら、休憩の時間をお知らせくだされば、その時間に合わせていきますけど・・・

ちょっと、電話やめてくれよ。物書きはプライベートな時は一人でいたいの。

 ・・・じゃあ、ドアの前で黙って握手だけでも・・

そういう例は作りません

そして、手紙。S田の手紙はケタが違う。 あるときは、ノート一冊を字で埋め尽くした手紙が届いた。

 ちーちゃま大好き ねえねえ、絶対に私をお嫁さんにしてね

的ノリの文が続く。手紙の宛先の場所に見沢ぶりっ子知廉様などと書くのはまだしも(しかし、郵便局の配達員に恥ずかしい)、その内容と量は、鬼気迫るエネルギーの洪水である。

 具合まだ悪いの?早く治してくださいよー 体なんか壊されちゃいつまでたっても私と遊べなくなるでしょ

 私からTELがかかってこなくなる方法 私が先生の所へかける前に、仕事とか眠る前に先生が私のところにかけりゃ済む事でしょ!! 今から仕事に没頭するからね!おりこうさんにしていてちょ!とか、今から眠るから夢の中でじゃれようね!とか・・・そうだそうしましょ

 血圧に悪いから怒らない様に・・・

 ――つまりー文学で頭の中をガチガチに固めてばかりいないで、少しは女の気持ちを分かんなくちゃ、ダメですよーってこと

もちろん、何回か電話や手紙で頼むからやめるか、せめて回数を減らしてくれ などと言ってはきたのだ。仕事に支障が出るため、簡単には電話番号を変えられない。

あるとき、

 もし私が死んだら生命保険を、子供と先生の二人で分けてください

という文とともに、保険書類のコピーが送られてきた。子供は11歳だった。無視、した。とにかく、恐ろしいのだ。 我慢して、無視し続けるとこうだ。

 「これは、不幸の手紙です」 そして、急にエロ本を同封してくる

 「いい本あったので送ることにしました。おかずに使ってください。お礼は見沢さんの写真――できればヌードがいいなア――をほんの100枚ぐらい、送ってくれ!」

 「私が、今夏企んでいること、題して渋谷の共産党本部に手紙を出してあるいは直接行って、見沢知廉に会ってあげてくださいと宮本健司さんにお願いする、到底かなわぬダメ元夢の計画大作戦」

確かに俺は、宮本健司に会ってみたいといったことはある。起こした事件の性質や刑期がそっくりだからだ。しかし、さすがに実行してみようと思っていなかった。そんなの絶対に無理だ

 先生って本当にその時によって写真写りが違うですね。 先月号の写真はユダヤ人の青年みたいだったし、GONの時は佐野しろうみたいで、TVに出たときは小林ひとみみたいにかわいかった

S田から、出演するイベントにビデオカメラ持参で来ると電話で予告された時など、それに「来るな」と大人気もなく、警告の言葉を浴びせかけてしまった

 「22日と26日は他の先生のファンも結構来るわけでしょ どうして私は先生本人から来るなって言われるのか、どーしても腑に落ちないんです。」

 「生S43 身長148�p 性格 女の好きなものにうとい。好きな人間には、すんごいやさしい。嫌いな人間には、どーしてそんなに性格わるいの〜 みんなあんたを嫌ってるよーなどといわれる。」

 「私の友人のNちゃんは、某有名漫画家つのだ次郎と知り合いなのです。Nちゃんがつのだに募づ和夫の住所と名前を言った途端、お前ら、何も知らないくせに、知ったような口をきくな などと怒りまくったそうです。あげくのはてには俺は、自分の描いた漫画は全部読んだなどと、わけのわからぬことをぬかしはじめたそうです。頭にきたから、S田ちゃん、一緒につのだの家にいたずら電話しよてな具合になってしまいました。」

手紙はともかく、一日に何十回の電話、ファクス攻撃を受けてとうとうS田のことを警察に相談したら、 じつは俺の前に、つのだじろうのストーカーをやっていたらしく、つのだの家に言ったりした前科があったことを知った。 つのだじろうと自分に、いったいどんな共通点があるんだ しかし、相手がいくら変わっても、やることは同じ、S田は相手かまわず、自分の頭の中の妄想にしか興味がないらしい。

 「なんかこう、ぴりぴーんとくるものがあるんです。あっこの人は絶対、赤い糸だなーって」

 「私の家にSMの本がいっぱいあります・・・」

 「大好きな見沢ちゅちゅれんさま 手紙の宛名」

 「何日か前に先生の所へ行くよって手紙に書いたのですが、返事がなければ、行ってもよいと解釈していきます。ダメならダメでお返事くだされば、こっちもそのようにします」

そう、無視もできないのだ

 「ちーちゃま最近、ほっぺとか、口のまわりとか、ヒリヒリっていいますか、変な感じがしませんか 

 実は私、寝る前、必ず枕もとのちーちゃまのお写真に、ちゅうちゅう吸いついているのであります 気持ち悪がることではない 色々と知ってほしいものですから いいんだ いいんだ ちーちゃまが、そうやって私と遊んでくれないのなら、都内のどこかの駅のトイレに僕は、モーホーです等の落書きをして、ちーちゃまのプロフィール書いちゃうモーン 改めてお願いがあります・・・・私の恋人さんになってください びぇっ びぇ〜」

 「あーあ、また、ちーちゃまにおこられてしまった・・・。仕方ない、私が悪いのだから・・・。いつも、迷惑かけて、御免なさい・・・ 私が、いつもどんな気持ちでいるか、貴方はちっともわかってくれない!ちーちゃまなんか、大嫌い!いつもいつも、自分ばかりが、忙しいと思わないでね! バカ!世界一のわがまま野郎!ナルシストのエゴイスト!天狗野郎!ちょっとぐらい、いい男だからって、つけあがるな!」

 「最近、私、血液型を問われると、まともに答える前にミヤマクワガタと言ってしまう。 いい年して、かなりのバカだが、こんな自分が、大好きだ、自分が、大好きである以上に、他人さまとかも、堂々と愛せるのだ。」

 「私は、私生活等において、静止能力を持っています。特に、女同士の職場は、ちょっとした事で、もめたり、ぐずぐず愚痴る人間が多いもの。 やれ、誰ちゃんがどうとか、こうとか、噂花いなるものは、常につきもの。私は、そのようなことは、すべて静止してしまい、よーっぽどの事がない限りは、起こらん人間です。 どこにも属さないが、ゆえにみんなに好かれるS田ちゃん ――でも、唯一私が、静止できず、困っていることがあります。他ならぬ、先生のことであります。」

 「私自身はもちろん、hさんと何の関わり合いもないし、昨年電話や手紙などで話もしたりしたけど、hさんはhさんなりに先生の事大事にしていたようで、以前先生私に言ったでしょ お前のせいで事務の奴ノイローゼになったんだぞって、当時私はバカじゃないのみたいに思ってましたが、後になって考えてみると、それ以外の面でも色々hさんは苦労したのでしょう・・・」

お前が、その大きな要因なんだよ。お前の電話やファクスの事があって、お互いピリピリしてたから喧嘩にもなったんだよ! 極度にピリピリしていた俺は、ある日、出版社からの電話をS田だと勘違いし、連続して切り続けてしまった。おかげで、仕事が一つだめになるという大打撃を受けたのだ 絶対に怒らないでいようと誓っていた俺も、出所して初めて怒鳴っておこる羽目にもなったのだ

 「私はあの時 先生が怒鳴った時正直申しまして、なんて、子供っぽい人なんだろうと思いました。先生も、もうちょっと大人になってください」

てめえ!てめえの携帯TELでまた仕事が一つつぶれ、自宅に一日40回もTELしてきやがるから怒鳴ったら、遊びに来てた先輩作家の方が怯えて逃げかえったんだぞ

 「あくまでも恋愛感情を優先に行動している女こどもへの対処の仕方は別にあるでしょう。義勇軍さんの件ですが、これは私、滅茶苦茶腹が立っております。 北新宿の事務所まで、ちょっと足を運んで喧嘩でも売りに行こうと思いましたが、必死に感情を抑えて我慢しました。とにかくこの件は、上に立つ先生が、ちゃんと説明してくれなくては、私への人権侵害以外の何物でもありません。 実際にまだ一度もあったことすらないのですし、会って言われるのなら、ともかく、このような中学生のレベル以下の問題等で、私もがたがた言われるのは腹の虫がおさまりません。 こんなことで世の中を変えようとか悪性を何とかしようとか、よく言えるもんですね。自分の立場だけを、正当化しようとする人間に何ができるのですか? 先生は、文筆業の公的な人間なのですから、私のような人間が出てきても仕方ないことを、ちゃんと(義勇軍に)説明すればいいじゃないですか。もう、いい大人なのだから。先生の力量で丸く収められるでしょう。(そんなに信用されてないの?) それと、義勇軍さんがノイローゼ状態みたいなこともおっしゃってましたが、ノイローゼ路は個人のパーソナリティの問題でしょう。意外と根性ないんですね。 私に対して基地外とおっしゃってましたが、素晴らしい誉め言葉です。こんなに迷惑かけて騒いでんのはおめえだけだよーと先生言っておりましたが、あれだけタンカを切ったのだから、来年の5%消費税も何とかしてくれるんでしょうね。 減らず口は問題解決の後に言いましょう。どうも先生が一方的に起こっているけど、もうちょっと違う角度で物事を見てください。」

ついにはNTTに言って、かかってきた特定の番号をブロックするイタ電防止の手続きを取った。それでもめげずに、携帯電話にかけてくる。速達がくる。挙句の果てには自宅玄関の前までやってきた。 ある日、自宅のチャイムが鳴った。インターフォン越しに、どなたですかと尋ねるとしばらくシーンとしたままで、やっと「あのう・・・」と声が聞こえた。 慌ててインターフォンを切ると、どんどんと5分間、戸を叩き続けて消えていった。 結局、一度実家からファクスを送ってきていたことを思い出し、S田の親へ手紙を書いて送信し、本人には内容証明郵便で以後電話、FAXした場合業務妨害等で告訴すると神経科で書いてもらった診断書を同封して手紙を送り、 やっと嵐は静まった。今度はだれを標的にするつもりなのか。


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