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「キネマ旬報 一九五三年 二月上旬号 ベストテン発表記念特別号」 グレアムグリーンとのコンビになるこの一九四九年度作品で、キャロル・リードはウィーンを舞台とした気分劇を試しみ 光と影とリズムを駆使した実に映画的な表現によって観者を魅了した。余韻嫋々たる並木路のラストシーン。 ジョセフ・コットン、ヴァリ、トレヴァー・ハワード以上にオースン・ウェルズが光る。 外国映画の選定にあたった委員は38名である。 外国映画のベストワンは263対261という僅々2点の差で「殺人狂時代」が「第三の男」を抜いてトップを占めた。 これもはなはだ興味のある現象と言いたい。「第三の男」をベストテンに入れたものは34名。 第一位に推したもの11名、第二位に入れた者6名という結果であった。 であるから第一位推薦者の数をもって順位を決定するシステムを採るとすれば 「第三の男」がトップとなり「殺人狂時代」はラナートップになるわけである。 「殺人狂時代」「第三の男」はその差ほとんど紙一重というべく、数値は絶対であるが、選定委員の総意としては、 両者ともに首位に並べたい気持であったとみられる。
植草甚一 一位選出 「第三の男」は映画をたのしむ者にとって、昨年だけにかぎらず、この数年間にみた一番いい映画は何かと訊かれたときに、 まっ先に飛び出すだけの決定的なものを持っている。 決定的なものとは、映画の本質であるイマージュの半永久的な残存性にあるが、とくに「第三の男」では アントン・カラスのツィター音楽がイマージュに溶け込んでいて、残存する凡てのものが新たな興奮を喚起する。 この意味でトオキー以来の最も純粋な映画芸術の一つである。
上野一郎 二位選出 第三の男は映画とはテクニックであるという事を改めて教えてくれたような作品だが、もっと深いものが表れていてもいいような気がする。
荻 昌弘 一位選出 正直な話、映画経験の浅い私にとって「第三の男」があたえた強烈なショックは生れてはじめてのものだったといっていい。 「天井桟敷の人々」や「河」はたしかにこの作品以上に<人間的>だと思うが、他にどんな傑作が並ぼうと、 私はやはり「第三の男」をベストに推したにちがいない。 黒白映画の芸術性がこれほど感覚的に鋭く表現されたことはない――というのはリクツであって、 惚れてしまった以上どうしようもないではないか、というのが私の本音である。
河上英一 一位選出 「第三の男」複雑怪奇な敗戦後のウィーンを背景に、よくその社会状態を知らせつつ、親友に対する愛情と恋人に対する 愛情の板挟みになった男の憂鬱な情緒が、親友の犯罪者の冷たい人生観と美しいまでに対比された描写は、 他のいかなる芸術部門も表現しきれない異常なサスペンスとユーモアを呼び迎えて、 現在における映画芸術の極致とさえ断じたい。これには撮影、装置の配慮もさることながら、 ツィターと呼ばれる楽器の演奏も画期的な功績をあげている。
滋野辰彦 一位選出 映画的な<創造>を最も多く含んでいる点において、第三の男を第一位とした。リアリズムを堅く守りながら 眼前の現実をはなれて、映画としての時間と空間を作りあげている。この時空間は映画独自のもので、 それ有るがため、この映画の人物もまた、真に生きているのである。
清水晶 一位選出 「第三の男」からは完成されたテクニックの魔術というものを感ずる。魔術は決して奇術ではない。 或る種のスリラーなどに見られるような、ありそうもない仮説の上に立ってのテクニックの奇術などは、 しょせん映画ファンだましで、いただきかねるが、「第三の男」には、人間性を知り渡し、社会的情勢にも通じた上での驚くべきテクニックの魔術がある。 空前と言っていい、スリラーの驚くべき芸術的昇華だ。
杉山静夫 一位選出 「第三の男」の作劇法の図抜けた巧緻さと美しくマッチした技術とにほとんど間然するところのない妙味が窺われ、 激しく博たれた結果であるが、旬報に載ったシネリオを改めて読み直してみるとこの感はいよいよ深くなってくる。 ラスト・シーンの構成などは俗っぽい感傷からでなしに厳粛な意味で叩頭する。
津村秀夫 一位選出 「第三の男」第二次大戦後のヨオロッパというものの暗い運命の中の恋を描き、映画のスタイルとしては全く新鮮で大胆であるのみならず、 強烈な作品である。悲劇的感情の流出が全く音楽的といってよいほどリズミカルであるが、 それはヅィッタアという特異な楽器の独奏を巧みに使用した創造的な手法が作品を一貫してほとばしっているからでもある。
登川直樹 一位選出 「天井桟敷の人々」と「第三の男」のいずれを首位にするかで大分迷った。 内容では前者をとるが表現では後者を推したいという正反対の、それぞれに長所をもっているからだ。 しかし「第三の男」のほとんど完璧に近い様式は、やはり映画史的な意義もつものと言ってよかろう。 あえて首位に掲げたゆえんである。もともと一線上にならべることに無理があるのだから、その時々の気分が多少は関係することを 了承して頂かねばなるまい。
鳥海一郎 一位選出 「第三の男」動く写真の芸術としての映画の良さを高度に発揮した作品である。画面、または背景のみをしばしば傾斜させているが、これも恣意的な試みではなくてストオリイと 心理的な関連が見事についている。その関連が無いように見えるところでも、動いて変化していく構図の必要から来ており、すこしも無駄がない独創的な美しさだ。 さらにまた作品内容の社会批評的な意味を高く買いたい。
野口久光 三位選出 「第三の男」はリードの映画美へのひたむきな探求が高く評価されなければならない。
双葉十三郎 一位選出 光と影と音楽と。映画的表現において素晴らしいだけでなく、気分的にも最も好きな作品なので、私は文句なしに「第三の男」を第一位に選ぶ。
宮 睦夫 三位選出 正直にいって「第三の男」を観て、映画というものをこんなにも面白く作れるものか、とすごく感嘆はした。