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監督交代の顛末 高田宏治 編集部から、大島監督が降りられた事について、何か書けと言われたけれど、今、改めて思い起こしてみても、 めいめいが必死の形相でよい仕事をしようと頑張った揚げ句の事だから、何も言う事がないというのが率直な感慨です。 ただ、事件直後、日下部チーフプロデューサーがつくづく、大島さんはリッチだからなあ、と言ったのが、大変、印象的でありました。 私などは、脱稿する頃には、たいてい、ギャラのほとんどを食いつぶしている現状でありますから、 向こうからクビにされない限り、仕事を投げたいときには、夜逃げでもするか、急病で入院するか、頓死する以外にないでしょう。 もちろん、借金しても、やりたくない者はやるなと言われる向きもあるかもしれないけれど、幸か不幸か、 自分自身がそれほどご大層な存在でもないし、だいいち、やりたくない映画なんてないのだから、どうしようもありません。 さて、日本の黒幕という作品については、大島監督も、何度かの打ち合わせの後、しみじみ述懐しておられたけれど、極めて難しく厄介な素材でありました。 降旗さんという、またとない監督の登場を得てからも、二転三転、クランクイン前夜に至って、やっと、ゴールらしいものが見えてきたという、苦しい闘いでした。 元来、極端に向きような体質で、第三者の意見、批評にことごとく感心し、試行錯誤を繰り返すことで、定評のある私ですが、 今回は、とりわけ格別の趣で、つくづく良い勉強をさせてもらったと思っています。 結局、大島さんという凄い人と、降旗監督という、今油の乗り切った先輩二人にもまれて、一番、得をしたのは私かもしれません。 世間の様々なゆとり沙汰に対する、私のメッセージは、この作品で狙いたかったことを、初志貫徹、シナリオ的劇完成度を高める以外にないわけで、 素材が素材だから、せいぜい、オーバーランしてくれという降旗さんの注文に、オーバーヒート気味に頑張ってみたものの、 自分の筆力の限界はこの辺かなと、いささか、うすら寒い現在の心境です。 日本の黒幕は興行的にも政策的にも色々ハンディキャップを背負ってしまったけれど、 日下部チーフプロデューサーや本田プロデューサーが、現状では、最善最高と思われる内容本位の配役をしてくれ、 主演の佐分利信さんも熱気をもって乗ってくださっているので、後は、無事、撮影が進行し、一人でもたくさんのお客さんに見てもらえることを祈るのみです。 実のところ、大島さんが土壇場で降りられたときには、さすがの私も、この作品がお蔵になるものと覚悟を決めたものです。 その間の色々ないきさつについては、書き記す余裕はありませんが、極めて切迫した状況であり、その中で、製作に踏み切ったことについては、 岡田社長の英断はあったにしても、東映京都の持つ、しぶとさと底力を再認識し、一脚本家として感謝せざるを得ません。 今の映画作家は、押しなべて、生活より以上に、映画作りに対して大変ハングリーであります。 それだけに、仲間同士の友情や信義の秩序に関して、一般社会異常に厳しくあらねばと、柄にもなく、自戒しております。